ART TREES 3.0:管轄区REDD+クレジットに関するアップデート
デロイト トーマツ サステナクラフトからのニュースレターの最新号です。
Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事では、TREES 2.0から維持された既存の算定ルールとあわせてTREES 3.0の主な改訂点を解説し、特に、定量化された森林炭素の成果と発行対象となるクレジットとの違いに着目します。
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要約
Architecture for REDD+ Transactions (ART) は、2026年6月に「REDD+ Environmental Excellence Standard(TREES)」のバージョン3.0をリリースしました。TREESは、個別の保全プロジェクトに成果を帰属させるのではなく、国または適格な準国家レベルの管轄区域全体で達成された森林由来の排出削減・除去に対してクレジットを発行する制度です。今回の改訂は、従来の算定枠組みを維持しつつ、参加資格、クレジットレベルの妥当性の立証、森林再生の算定方法、発行前の調整手続きなどを変更しています。
主な改訂点として、既存のREDD+プログラムや一定の要件を満たす管轄区域に向けた期限付きの「トランジション・パスウェイ」の導入、排出削減とHFLD(高森林被覆・低森林減少)のクレジットレベルに対する保守性の立証要件の強化、天然林再生を対象とする標本ベースの算定方式の追加が挙げられます。不確実性の評価やリバーサルリスクへの対応も見直され、算定された炭素成果から発行可能なクレジット量を求める過程に影響します。これらの変更は、参加やクレジット算定の選択肢を広げる一方、過剰なクレジット発行を抑えるための要件を追加・明確化するものです。
本記事では、TREES 2.0から維持された既存の算定ルールとあわせてTREES 3.0の主な改訂点を解説し、特に、定量化された森林炭素の成果と発行対象となるクレジットとの違いに着目します。
1. 管轄区REDD+とART TREES
1.1 プロジェクトベースと管轄区REDD+
プロジェクトベースのREDD+では、通常、境界を定めた森林区域内の保全活動に伴う排出削減をクレジット化します。方法論に応じて、過去の傾向、参照区域、森林減少リスクモデルなどから、プロジェクトが実施されなかった場合の反実仮想シナリオを設定し、想定排出量と実際の排出量を比較します。
これに対し、管轄区域レベルのREDD+では、個々の削減量を特定の保全活動に割り当てるのではなく、国または適格な準国家の管轄区域全体の森林排出量を共通のクレジットレベルと比較します。その結果には、区域内の土地利用政策、法執行、保護区、コミュニティ林業、農地拡大など、さまざまな活動や土地利用変化の複合的な影響が反映されます。
算定境界が広がることで、リーケージ(排出を伴う活動の区域外への移転)の扱いも変わります。例えば、森林減少が同じ管轄区域内の別の地区に移った場合、移転先で生じる排出量も区域全体の報告排出量に含まれます。一方、準国家の管轄区域の外へ活動が移転した場合には、リーケージ控除が必要になることがあります。両者の主な違いは以下の表に整理しています。
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項目 |
プロジェクトベースのREDD+ |
管轄区REDD+ |
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算定境界 |
定義されたプロジェクトエリア。その境界を超えたリーケージは別途評価。 |
国内または参加する準国家管轄区内のすべての対象森林エリア。 |
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クレジット参加者 |
土地および炭素に関する権利を有するプロジェクト開発者または実施組織。 |
国または対象となる準国家政府。クレジット対象となる成果に対する権利を証明する必要がある。 |
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ベースライン / クレジットレベル |
過去の傾向、参照エリア、または森林減少リスクモデルを用いて推定された、プロジェクトがない場合の予想排出量。 |
通常、管轄区の森林排出量の直近5年間の平均値を、保守的に調整したもの。 |
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追加性 |
プロジェクト固有の脅威や介入の証拠などを通じて、プロジェクトの方法論の下で証明される。 |
個々の削減を特定の介入に帰属させることなく、排出量が管轄区のクレジットレベルを下回ることで評価される。 |
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リーケージ |
プロジェクトエリア外に移転した森林減少については、別途評価が必要。 |
管轄区内の移転は報告される排出量に含まれるが、境界外へのリーケージは差し引きが必要になる場合がある。 |
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実施およびモニタリング |
プロジェクトエリアおよび活動に関連する森林の変化と炭素成果をモニタリングする。 |
管轄区全体の森林排出量を測定し、複数の政策、プロジェクト、および土地利用の変化の結果を捉える。 |
1.2 ART TREESの枠組み
Architecture for REDD+ Transactions(ART)は、管轄区域レベルの森林排出削減・除去を対象とする独立したカーボンクレジット制度です。その基準である「REDD+環境エクセレンス基準(TREES)」は、国や適格な準国家政府が検証済みの成果に対して個別の識別番号を持つクレジットを取得するための算定、モニタリング、検証、セーフガードの要件を定めています。
基本的な算定の仕組みはTREES 2.0からおおむね維持されています。5年間の各クレジット期間では、直近の過去の森林排出量を削減評価の主要なベンチマークとし、高森林被覆・低森林減少(HFLD)の管轄区域には別の算定方式も認められます。非森林地から森林への適格な転換は除去として算定します。成果を管轄区域全体で定量化・検証したうえで、発行前にリーケージ、不確実性、リバーサルリスクに応じた調整を行います。TREES 3.0はこの枠組みを置き換えるものではなく、参加できる管轄区域、クレジットレベルや除去の妥当性を示す方法、発行可能量の算出方法などを見直しています。
1.3 参加資格とトランジション・パスウェイ
TREESの通常の準国家レベルの参加要件では、一定以上の森林面積に加え、指定された行政区域や認められた先住民族の領域に沿った算定境界が求められます。他の枠組みで算定区域を設定した既存のREDD+プログラムや、森林面積の小さい管轄区域では、これらの条件を満たすことが難しい場合があります。そこでTREES 3.0は、森林炭素パートナーシップ基金(FCPF)の炭素基金と持続可能な森林景観イニシアティブ(ISFL)の参加者がARTへ移行しやすくなるよう、期限付きの「トランジション・パスウェイ(移行措置)」を設けました。これらの参加者は、最初のクレジット期間に既存の算定区域を使用できます。また、森林面積の小さい国や過去にREDD+に取り組んだ管轄区域など、一定の要件を満たす参加者には、森林面積の最低要件が緩和される場合があります。ただし、この措置によってTREESの他の算定要件やセーフガード要件が免除されるわけではありません。
いずれの経路も、2028年末までにARTがTREESコンセプトを受理することが条件で、適用は2035年末までに限られます。これとは別に、準国家レベルの算定を暫定的に認める期限も、TREES 2.0の2030年末から2035年末に延長されました。それ以降は国家政府が参加し、国家レベルで報告する必要がありますが、国家政府の参加の下で準国家区域のクレジット発行を継続することは可能です。これらの変更は、準国家の算定を国家報告の恒久的な代替とせずに、既存プログラムなどがARTへ参加する時間と選択肢を確保するものです。算定区域の例外措置を利用したクレジットには、ARTレジストリ上で「Transition Pathway」のラベルが付与されます。
2. クレジットレベルの設定
2.1 過去の排出量と実績に基づく追加性
排出削減の算定では、TREESは引き続き、クレジット期間に先立つ5暦年間の森林減少・森林劣化に伴う年平均排出量を出発点とします。TREES 2.0では、この過去の平均値が原則としてクレジットレベルでした。改訂後は、参加者が調整前の平均値について、クレジット期間中に想定される排出リスクと比べて十分に保守的であることを定量的に示さない限り、原則として1%引き下げます。この調整は、過去の排出量がそのまま通常想定される排出量(BAU)を下回るとみなすのではなく、BAUより保守的な基準値を設定するためのものです。
例えば、ある管轄区域で参照期間中の森林由来の年平均排出量が1,000万tCO₂eだったとします。標準の1%調整を適用すると、クレジットレベルは990万tCO₂eになります。クレジット期間中のある年の排出量が800万tCO₂eなら、発行前の控除やバッファープールへの拠出を適用する前の排出削減量は190万tCO₂eです。また、クレジット期間の更新時には、新たな炭素プールや活動を算定対象に追加する場合を除き、クレジットレベルを引き上げることは原則として認められません。
このように、追加性は、個々の法執行措置や保護区、コミュニティの取り組みによる回避排出量を別々に推計するのではなく、共通のベンチマークに対する管轄区域全体の実績によって評価されます。個別の施策ごとに反実仮想を算出する必要はありませんが、どの施策が報告された削減に寄与したかまで特定できるわけではありません。参照期間中の森林減少が例外的な状況を反映していたり、商品市況、気候、土地利用政策などがクレジット期間中の排出量に影響したりする可能性もあります。新しい調整は過去のベンチマークをより保守的にするものの、プログラムがなかった場合の排出量を確定できるものではありません。
2.2 HFLD(高森林被覆・低森林減少)アプローチ
広大な森林を維持し、歴史的に森林減少率が低いHFLDの管轄区域では、もともと低い排出量のベンチマークをさらに下回ることで大きな削減量を生み出すのは容易ではありません。このためTREESは、低い排出量を維持する取り組みも評価できるよう、HFLDアプローチを選択肢として残しています。適格性は森林被覆率と森林減少率を組み合わせたスコアで判定します。
HFLDのクレジットレベルは、通常の過去の排出量ベンチマークに、現存する森林の炭素蓄積量の0.05%にHFLDスコアを乗じた上乗せ分を加えて設定します。この上乗せ分は回避された森林減少を直接測定したものではなく、既存の森林が直面する排出リスクを表す代替的な指標です。そのため、過去の排出量から大幅に減少していなくても、低排出を維持することでクレジットが生じる可能性があります。
主な改訂点は、この上乗せを含むクレジットレベルの妥当性の立証にあります。TREES 2.0ではHFLDの適格性要件を満たすことで追加的とみなされていましたが、TREES 3.0では適格性に基づく判定を維持しつつ、参照期間中の関連するREDD+活動の記録と、HFLDのクレジットレベルが想定される排出リスクに対して保守的であることを示す定量的な証拠も求めます。森林被覆率が高く、過去の森林減少率が低いというだけでは、上乗せ分の妥当性を十分に裏付けたことにはなりません。また、年間排出量が通常のベンチマークを超えると段階的に控除が適用され、増加幅が大きい場合にはHFLDクレジットは発行されません。