Isometric Agroforestry Protocol v1.0の公開

Isometric Agroforestry Protocol v1.0の公開

株式会社sustainacraftのニュースレターです。

Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事では、Isometricがパブリックコンサルテーションを経て正式にリリースしたAgroforestry Protocol v1.0について、ドラフト版からの重要な変更点と、そこから読み取れる科学的厳格さとプロジェクトの実行のしやすさのバランス調整について詳細に解説します。

(出所: A new certified protocol for Agroforestry, 2026年2月9日)

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はじめに

これまでの経緯

Isometricのアグロフォレストリー方法論については、ドラフト版が公開された際に以下のニュースレターで内容をご紹介しました。

Isometricの新しいアグロフォレストリー方法論のドラフト
2025年10月 Methodology Updates (1/2)

当時のドラフト版の大きな特徴として、農業生産を維持しながら炭素除去を行う「ワーキングランドスケープ」への焦点、ダイナミックベースラインの採用、そして非常に長期的なコミットメント期間の要求が挙げられていました。

具体的には、当時のドラフト版では、40年間のクレジット発行期間に加え、さらに40年間のモニタリング期間(Ongoing Monitoring Period)を設け、合計80年間という超長期のプロジェクト継続を求めていました。また、リーケージ評価においてNet Project Productivity (NPP)という概念を導入し、プロジェクト内の生産性向上によってリーケージを相殺するという新しいアプローチを提案していました。これらはVerraなどの既存スタンダードと比較しても厳格な水準であり、高品質なクレジットを創出する意図が明確でした。

しかし、同時に懸念も示されていました。特にグローバルサウスの小規模農家にとって、80年という期間は数世代にまたがる契約となり、土地所有権の複雑さや将来の不確実性を考慮すると、現実的な実装のハードルが極めて高いのではないかという点です。今回のパブリックコンサルテーションおよび正式版リリースは、こうした懸念に対し実際にステークホルダーからどんなフィードバックが寄せられたのか、またそれに対してIsometricがどのように回答したかを示す重要なアップデートとなります。

コンサルテーションのサマリー

Agroforestry Protocolのパブリックコンサルテーションは、2025年9月30日から10月30日までの30日間にわたって実施されました。コンサルテーションサマリーは2026年2月3日に公開され、同時に正式版プロトコルもリリースされています。

サマリー文書に記載されたComment-Resolutionの数に基づくと、約75件の個別コメントが寄せられたようです。コメントが集中したセクションの上位は以下の通りです。

  • Ecological Viability(生態学的実行可能性): 約15件
  • Project Commitment Period(プロジェクトコミットメント期間): 約10件
  • Additionality(追加性): 約8件
  • Safeguarding of Biodiversity(生物多様性保護): 約8件
  • Leakage Assessment(リーケージ評価): 約8件
  • Engagement with Enrolled Smallholder Landowners(小規模農家との関与): 約6件
  • Applicability(適用範囲): 約5件
  • Systems Boundary and GHG Emissions Scope(システム境界・GHG排出範囲): 約4件

パブリックコンサルテーション全体を通じて一貫して指摘された点は、プロトコルの実行可能性です。科学的厳密さは広く評価されつつも、小規模農家プロジェクトでの実施コスト・複雑さ・技術的負担が過大であるとの指摘が多くのステークホルダーから寄せられました。これと密接に関連するのが小規模農家への障壁の懸念です。最小面積、土地権の証明、収益分配率、プロジェクト期間など、多くの要件が途上国の小規模農家を事実上排除するリスクがあると指摘されました。

また、科学と実務のバランスの問題として、アルベド効果やリーケージ計算、GHG会計など科学的に最先端の手法を採用する一方で、プロジェクト開発者にとっての実装コストが高すぎるとの声が目立ちます。加えて、投資家の視点からは、追加性の頻繁な再評価やクレジット取消の厳格さが、長期投資のインセンティブを損なうとの懸念も示されました。

以降のセクションでは、こうしたフィードバックに対するIsometricの対応を4つのカテゴリに分けて詳しくみていきます。1点目はドラフトよりも要件が緩和された点で、これにはプロジェクト期間や収益分配率の低減などが含まれます。2点目はドラフトの内容が維持されたもので、これにはアルベド効果のスクリーニングやリーケージ要件が含まれます。3点目はドラフトよりも要件が厳格化したもので、これは数は多くはありませんが、面積あたりの最低樹種数の要件などが含まれます。最後に4点目として、今後の改定での対応へ先送りされたものもあり、これには土壌有機炭素の考慮などが含まれます。


ドラフトよりも要件が緩和された点

プロジェクトタイムラインの実現可能性

背景
今回のパブリックコンサルテーションにおいて最も多くのフィードバックが寄せられたのが、プロジェクトの契約期間に関する議論です。当初案では、40年間のクレジット期間に加えてさらに40年間のOngoing Monitoring Period(合計最大80年)が求められていました。これに対し、複数のステークホルダーから強い反発がありました。

主な論点としては、小規模農家の土地権は世代を超えて変化するため80年の契約維持は不可能であること、クレジット期間終了後に収益源がないのにモニタリング義務を課すのは不公平であること、Verraの最低40年(クレジット+モニタリング含む)と比較して厳格であること、世代間の契約継承の扱いが不明確であることなどが挙げられました。

正式版 (v1.0)
Isometricはこれらの指摘を受け、Project Commitment Periodの最小値を40年に変更しました(ICVCMの要件に準拠)。Crediting Periodは40年まで延長可能とし、Crediting Period全体が40年に達する場合、Ongoing Monitoring Periodは不要となっています。また、Crediting Periodの更新が可能で、世代間の契約継承にも対応できるようになりました(例: 最初20年→更新して次の20年)。Ongoing Monitoring Period中にProject Proponentが土地にアクセスできない場合のReversalの定量化方法もSection 10.5に追加されました。