Isometricのバイオ炭方法論の紹介
株式会社sustainacraftのニュースレターです。
Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事では、Isometricのバイオ炭プロトコルを検証し、最近更新された2つのモジュールについてご紹介します。
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著者:Nick Lau (Applied Scientist)
概要
以前のニュースレターでは、二酸化炭素除去(CDR: Carbon Dioxide Removal)の方法の一つとしてバイオ炭を紹介し、レジストリ間での方法論の比較を行いました。本記事では、Isometricの Biochar Production and Storage v1.2プロトコルに焦点を当て、特に異なる種類の生産システムをどのように扱っているかに注目します。
バイオ炭は、低酸素環境でバイオマスを加熱することで生成される炭素豊富な材料です。バイオマスの分解を遅らせることで、炭素を長期間貯留する手段として利用されます。
しかし、バイオ炭は単一の標準化されたセットアップで生産されるわけではありません。制御された反応器と継続的なモニタリングを備えた大規模な制御システムを利用するプロジェクト(例えば、大規模なバイオマスボイラーや発電施設などで、燃料を完全に燃やしきらずに一部をバイオ炭として取り出す場合)もあれば、バイオマスの原料が入手可能な農場や林業現場の近くで、多くの小型ユニットを稼働させる分散型システムのプロジェクトもあります。これらのシステムは、稼働の安定性や、現実的に収集可能なモニタリングデータの量の面で大きく異なります。
これらの違いに対処し、多様なバイオ炭生産環境に対応するため、Isometricは方法論を2つの部分に分けています。プロトコル本体では炭素除去の計算方法を定義し、個別のモジュールでは、それぞれのシステムがその計算に必要なデータをどのように生成すべきかを規定しています。この区別は、システムによってデータを収集できる信頼性に差があることを反映したものです。
以降では、まずSection 1でバイオ炭がどのように炭素貯蔵を行うのかを簡単に説明した後、Section 2でIsometricのプロトコルの本体について概説します。その後、Section 3で生産システムごとにモジュールを分けることの必要性について簡単に述べたあと、Section 4と5では、大規模制御システムと小規模な分散型システムにおける要件を詳しく解説します。最後のSection 6では、既存のバイオ炭方法論との比較を行います。
1. バイオ炭システムにおける炭素貯蔵メカニズム
バイオ炭は、炭素循環におけるバイオマスの振る舞いを変えることで炭素を貯留します。
通常の状態では、植物材料は分解されるか燃焼され、そこに含まれる炭素の大部分は比較的短期間で二酸化炭素やメタンとして大気に戻ります。バイオマスが低酸素環境で加熱(熱分解:Pyrolysis)されると、その炭素の一部は、バイオ炭として知られる、より安定した化学構造を持つ固体形態に変換されます。このプロセスにより、炭素が分解される速度が遅くなります。
その結果、バイオ炭は、通常であれば数年から数十年以内に大気中に戻ってしまう「速い循環」から、一部が数世紀以上にわたって貯留され続ける「遅い循環」へと炭素を移行させます。この移行こそが、バイオ炭を炭素除去方法として機能させる要素です。
すべての炭素が等しく安定しているわけではありません。バイオ炭の一部は時間の経過とともに劣化しますが、バイオ炭の生産方法によっては、大部分が長く持続します。したがって、全体的な気候への便益は、以下のバランスに依存します:
- バイオ炭に保持される炭素量
- その炭素のうち永続的な部分の割合
- 生産や輸送などに関わる排出量
したがって、炭素除去量は、永続的な炭素量とライフサイクル排出量の両方を定量化することによって証明される必要があります。これらについては、以下のニュースレターでも簡単に紹介していますので、合わせてご覧ください。

2. Isometricバイオ炭プロトコル v1.2
ここから、Isometricにおいてバイオ炭の生産システムによらず用いられる、共通プロトコルについて説明します。
2.1 システム境界とライフサイクル排出量
炭素除去は次のように表現されます。
正味CO₂e除去量 = 貯蔵された耐久性炭素 − 総ライフサイクル排出量
炭素除去を計算するため、プロトコルはバイオ炭そのものだけでなく、プロジェクトのライフサイクル全体を考慮します。これには、原材料の調達からバイオ炭の生産まで、あらゆるものが含まれます。
- 上流プロセス(バイオマスの栽培、収穫、前処理、輸送)
- 運用中の排出量(燃料使用、電力消費、不完全燃焼)
- 下流の取り扱い(輸送、貯蔵、適用)
- 組み込み排出量(設備製造、建設、廃止措置)
図1は、システム境界と主要な排出源を示しています。補助エネルギー入力は特に重要です。熱分解システムは、起動時や最適ではない条件下で外部燃料(例:ディーゼル、LPG)を必要とすることが多いためです。これらの排出量は、自己熱分解型 (外部から熱を加え続けなくても、自分が発生させた熱で自律的に反応を維持できる)として設計されたシステムであっても考慮されなければなりません。これにより、炭素除去がバイオ炭の炭素含有量のみではなく、システム全体の正味の影響を反映していることが保証されます。

図1:バイオ炭プロジェクトのシステム境界を示すプロセスフロー図
2.2 長期炭素貯蔵量の決定
バイオ炭は、固定された方法で永続的に炭素を貯蔵するわけではありません。むしろ、貯蔵された炭素量は時間とともに徐々に減少します。プロトコルは、初期生産時の炭素量を測定することから始まり、その後、減衰ベースのモデリングアプローチを用いてその量がどのように減少するかを推定します。より安定した物質は炭素をよりゆっくりと失いますが、安定性の低い物質はより速く減少します。
減少率は、バイオ炭がどのように生産されたか、そして何でできているかによって異なります。例えば以下のような傾向があります:
- 特定の化学的特性が炭素構造の安定性を示す(H/C比=水素/炭素比)。
- 温度や滞留時間などの生産条件がその構造の形成に影響を与える(一般的に、高温および長い滞留時間は、これらの安定した炭素構造の形成を促進する)。
耐久性は貯蔵環境によっても影響を受けます。例えば、土壌に適用されたバイオ炭は、管理された環境に貯蔵されたバイオ炭とは異なる分解経路をたどる可能性があります。これらの要素は、耐久性期間と対応するクレジット期間を割り当てる際に考慮されなければなりません。
2.3 ベースラインと反実仮想貯蔵
ベースラインシナリオは、バイオ炭生産が発生しないと仮定します。さらに、プロトコルは反実仮想炭素貯蔵量の推定を要求することで、これをさらに洗練させます。多くの場合、プロジェクトがなくても、バイオマスはその炭素すべてを直ちに放出するわけではありません。例えば以下のような可能性を考慮します:
- 木質バイオマスは数年かけてゆっくりと分解される
- 一部の残渣は土壌に組み込まれる
- バイオマスが代替利用される
これらのシナリオ下で貯蔵されたままになるはずだった炭素の分は、クレジットの対象から除外されます。これにより、除去量が既存の炭素ストックの再分類ではなく、プロジェクトによって生み出された追加的な貯蔵量を反映していることが保証されます。
2.4 不確実性、感度分析、および保守的な定量化
炭素除去計算の一部の入力は、本質的に不確実であり、正確に測定することはできません。不確実性には以下が含まれます。
- 実験室での測定(例:炭素含有量、元素組成)
- 排出量推定(例:メタン放出量、燃料消費量)
- モデル化されたパラメーター(例:分解速度、ベースライン仮定)
プロジェクトは、これらの不確実性に対して結果がどの程度敏感であるかをテストしなければなりません。入力のわずかな変化が結果に大きな変化をもたらす場合、推定値は保守的に調整されなければなりません。非常に小さな排出源は無視できますが、より大きな排出源は含められ、正当化される必要があります。したがって、プロジェクトには以下が求められます。
- 妥当な最小値および最大値を表すパラメーター範囲を定義
- 正味除去量に最も強く影響する変数を決定するために感度分析を実施
3.なぜシステムごとに異なるアプローチが必要なのか
冒頭で述べた通り、バイオ炭の生産システムはプロジェクトごとに異なる条件下で稼働しており、これらの違いが、現実的に何を測定できるかを決定します。
