パリ協定6条定期アップデート/ITMOsの"値段”で選ぶホスト国
デロイト トーマツ サステナクラフト株式会社のニュースレターです。本記事はVCM Updates(ボランタリーカーボンマーケットのアップデート)のセクションB(政策動向編)です。
はじめに
今月のハイライト(考察記事)では、日印JCMの運用マニュアルで細かく求められるようになった資金・採算と貢献の情報と、企業にとっての示唆をお届けします。以下の流れに沿ってお伝えします。
- 政策動向
- 海外の主要規制の動向
- パリ協定6条2項(二国間協力)
- パリ協定6条4項(パリ協定クレジットメカニズム)
- 各国炭素関連政策
- 非国家主体のイニシアチブ
- UNFCCC Registry
- 海外の主要規制の動向
- 考察記事
- インドJCMマニュアル― ITMOsの"値段”で選ぶホスト国
キーワード: 6条, PACM, JCM, インド, EU ETS, クリーンクッキング
1. 海外の主要規制の動向
主要なハイライトは以下の3点です:
- パリ協定第6条4項(PACM)におけるクリーンクッキング方法論の採択: 監督機関(SB)は、待望されていたクリーンクッキングに関する2つの方法論と逆転リスク評価ツールを承認しました。これにより、PACM下でのクレジット発行に向けた実務的な枠組みが大きく前進しました。
- JCMの運用深化とアジア・ラテンアメリカでの制度整備: 日本がインドやチリとの間でJCM運用マニュアル等を整備したほか、フィリピンが大統領令により全国炭素市場枠組みの策定を指示するなど、国家主導の市場構築が加速しています。
- EU ETS改革を巡る加盟国間の不協和音: 2026年の本格運用やCBAMの進展を前に、イタリアやチェコが無償割当の維持やETS2の導入延期を求めるなど、産業保護と気候目標のバランスを巡る議論が再燃しています。
パリ協定第6条2項関連
今月は、日本によるパートナー国との運用細則の合意や、新たな市場プレイヤーの台頭が目立ちました。
- 既存パートナーシップの運用深化(日本)
- 新規の二国間連携と市場参入の動き
パリ協定第6条4項関連
パリ協定第6条4項(新メカニズム:PACM)については、監督機関(Supervisory Body)による方法論の承認が最大の焦点となっており、国連主導の炭素市場がいよいよ実務レベルで動き出そうとしています。
- 方法論の承認と逆転リスク評価ツールの導入
- 実効性と誠実性を巡る議論
各国炭素関連政策
各国は、2030年の目標達成に向けたNDC(国が決定する貢献)の更新や、国内の排出量取引制度(ETS)および炭素税の整備を急いでいます。
- 国家市場枠組みの策定と参入計画
- EU ETSおよびCBAMを巡る政治的対立
- 国内制度の調整
非国家主体のイニシアチブ
ボランタリー炭素市場(VCM)の信頼性回復を目指すイニシアチブは、企業の参加拡大と、市場監督体制の強化という二面性を見せています。
- SBTiの拡大と政策対応
- 市場の成熟と課題
2. UNFCCC Updates
先月から今月にかけて、UNFCCC(気候変動枠組条約)レジストリへ提出された報告書は合計1件(BTR:1件)でした。本期間中、JCM(二国間クレジット制度)パートナー国からの新たな報告書の提出はありませんでした。 唯一の提出国であるカタール(QAT)は、初となる隔年透明性報告書(First Biennial Transparency Report, BTR1)を提出し、パリ協定第6条2項の活用に対する前向きな姿勢と、CCS(炭素回収・貯留)や再生可能エネルギーを通じたNDC(国が決定する貢献)達成への道筋を示しています。
BTR(隔年透明性報告書)関連
カタール (QAT) - First Biennial Transparency Report (BTR1)
基本情報
- 提出文書: First Biennial Transparency Report
- 提出日: 2026-09-16
- 出典: UNFCCC Submissions
1. NDC目標と第6条(Article 6)活用の意向
カタールは2030年までに、基準シナリオ(BAU)比で排出を削減する目標を掲げています。今回のBTR1において、第6条2項に基づく「自発的な協力アプローチ(Voluntary Cooperation)」への開放性を明言しました。これは、ITMOs(国際的に移転される緩和成果)の移転を通じて、低炭素技術の導入や持続可能な開発を促進する意向を示したものです。
2. 森林・LULUCFセクターの動向
現状、森林セクター(LULUCF)の排出・吸収量はインベントリ推計の対象外(NE)となっていますが、国家戦略として「100万本植樹イニシアチブ」を推進し、2022年に目標を達成しました。2030年までに陸域・海域の30%を保全する目標を掲げており、乾燥地帯におけるマングローブ保全など、NbS(自然に根ざした解決策)への関心が高まっています。
3. エネルギー・産業セクター
排出量の約90%がエネルギーセクター(石油・ガス、電力、水)に集中しています。
- 再生可能エネルギー: 2030年までにピーク電力需要の30%を再生可能エネルギーで賄う目標。
- CCS/CCUS: LNG施設等における大規模な炭素回収・貯留(CCS)の展開を重視。
- 運輸: 2030年までに公共交通車両の100%電動化を目指す。
4. Article 6 インフラおよびMRV体制
環境・気候変動省(MECC)を承認機関とし、現在、国家MRVプラットフォームの一部として国内レジストリおよびITMOsの追跡システムを開発中です。パリ協定の強化された透明性枠組み(ETF)に従い、相当調整(Corresponding Adjustment)の実施についても検討を進めています。
5. 日本企業への示唆(JCMの観点から)
カタールは現在JCMパートナー国ではありませんが、第6条2項の活用に積極的であり、特に以下の分野で日本企業の技術に対する潜在的な需要が見込まれます。
- 高度な脱炭素技術: LNG生産工程におけるメタン漏出検知(LDAR)や、大規模CCS技術。
- 水・エネルギー効率: 海水淡水化の効率化や、砂漠環境に適応した太陽光発電技術。
- JCM拡大の可能性: 中東地域ではサウジアラビアが既にJCMパートナー国となっており、カタールの第6条への積極姿勢は、将来的なJCMスキームの適用や、類似の二国間協力の可能性を示唆しています。
3. 考察記事:インドJCMマニュアル― ITMOsの"値段”で選ぶホスト国
はじめに
2026年9月、日本とインドはJCMの運用マニュアル(Operational Manual for Joint Crediting Mechanism, Version 1.0)を公表しました(出典)。同月には、インドにてJCMフォーラムも開催されており両国の間でJCM実施運用に向けた協力が進んでいます(出典)。
本マニュアルは、プロジェクトサイクルの手続きから第三者機関(TPE)の指定、24種の様式までを1冊にまとめた231頁の大部です。一読すると、他のパートナー国で整備されてきた規則やガイドラインを「合体」させたものにも見えます。しかし細部を読み込むと、これまでのJCM文書には見られない要求が幾つも含まれていることが分かりました。
結論を先取りすると、インドJCMの特徴は、PIN、PDD、クレジット配分様式の各段階で細かく資金・採算と貢献の情報を求め、国際的に移転する緩和成果(ITMOs)が結局1トン幾らなのかを含め、これら事業採算や資金負担の情報をプロジェクト採択の判断材料の一つに考慮しようとしている点です。「何を・幾らで国外に出すか」を自ら選別するホスト国として、JCMを技術移転と資金動員のためのツールとして設計しているように見えます。こうした「選別するホスト国」の考え方は、6条2項の実務が成熟するにつれ、他国にも一層浸透する可能性があります。
本稿では同マニュアルに着目し、以下、①インドにとっての6条2項の位置付けと狙い、②マニュアルで求められる資金・採算と貢献の情報、③企業にとっての示唆、④まとめの順にお伝えします。