半導体サプライチェーンの鉱物需要と強靭化戦略

半導体サプライチェーンの鉱物需要と強靭化戦略

調査対象: 半導体サプライチェーンの鉱物需要と強靭化(https://www.csis.org/analysis/mineral-demands-resilient-semiconductor-supply-chains

概要

半導体産業は、ガリウム、ゲルマニウム、希土類元素など、多様な重要鉱物への依存度を高めており、サプライチェーンの脆弱性が増大しています。特に、中国がこれらの鉱物の採掘と加工において支配的な地位にあるため、各国は供給途絶のリスクに直面しています。これに対応するため、米国と欧州連合(EU)は、国内生産への投資、国際協力、リサイクル、技術革新を通じて、半導体および重要鉱物サプライチェーンの強靭化を図る政策を推進しています。

主要ポイント

1. 中国による輸出規制と地政学的リスク

中国は、米国との技術競争が激化する中で、半導体製造に不可欠なガリウムやゲルマニウム、希少金属などの重要鉱物に対して輸出規制を強化しています。2024年12月には、特に米国を対象とした「軍民両用」技術の輸出規制を厳格化し、アンチモン、ガリウム、ゲルマニウムの米国への出荷を禁止しました。2024年9月に実施されたガリウムとゲルマニウムの輸出制限は、世界の半導体供給能力を18~22%減少させました。このような中国の支配力は、世界の技術生産と防衛能力に不均衡な影響を与える可能性があります。

2. 各国の政策的対応と国内生産強化

米国は「CHIPSおよび科学法(CHIPS Act)」を通じて、国内の半導体製造能力強化に520億ドルを投資しています。この法律は、重要鉱物の持続可能な抽出・加工研究開発への投資、国内鉱業人材の育成、リサイクルと代替技術の開発を促進します。EUも「欧州半導体法(European Chips Act)」を施行し、国内の半導体エコシステムを強化し、サプライチェーンの強靭化と外部依存の削減を目指しています。EUは2030年までに、戦略的原材料の年間需要の10%を抽出、40%を加工、25%をリサイクルで賄うという目標を設定しています。

3. サプライチェーンの多様化と国際協力

各国は、単一国への依存を減らすため、サプライチェーンの多様化と国際協力を重視しています。米国は「フレンドショアリング」または「アライショアリング」戦略を追求し、共通の価値観を持つ友好国への生産シフトを進めています。また、米国主導の「鉱物安全保障パートナーシップ(Mineral Security Partnership)」は、14カ国とEUと共に重要鉱物のバリューチェーンにおける戦略的プロジェクトを対象としています。

背景・文脈

半導体は現代のあらゆるテクノロジーの基盤であり、その需要は2030年までに年間1兆ドル規模に達すると予測されています。しかし、先端半導体には300以上の材料が必要であり、特にガリウム、ゲルマニウム、希土類元素などの重要鉱物の供給は、採掘と加工の地理的集中、特に中国への高い依存によって脆弱性が指摘されています。この脆弱性は、国家安全保障上の懸念にまで発展しており、各国政府は経済的競争力と国家安全保障を確保するために、半導体サプライチェーンの強靭化を喫緊の課題と捉えています。

詳細分析

半導体産業はシリコンだけでなく、より多様な重要鉱物に依存しています。例えば、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素は、ミサイル防衛レーダー、高周波無線、衛星通信など、国防機能を持つ半導体に広く使用されています。特にガリウムは半導体材料の中で最も供給途絶のリスクが高いとされています。これは、ガリウムがボーキサイトの加工副産物として生産されることが多く、その加工能力が限られているためです。

気候変動もサプライチェーンに新たなリスクをもたらしています。PwCのレポートによると、世界の半導体生産の3分の1(32%)が、2035年までに気候変動による銅の供給途絶リスクにさらされる可能性があります。銅は半導体回路の製造に不可欠な材料であり、干ばつなどの気候変動の影響を大きく受ける可能性があります。

米国のCHIPS Actは、国内の半導体製造能力の拡大に加えて、重要鉱物サプライチェーンのレジリエンス強化にも焦点を当てています。具体的には、国立科学財団(NSF)の下で「重要鉱物採掘研究開発プログラム」を設立し、鉱物の持続可能な抽出方法やリサイクル、代替材料の研究に投資しています。また、重要材料に関する連邦政府の取り組みを調整する「重要材料小委員会」も設置されています。

欧州の「欧州半導体法」と「欧州重要原材料法(European Critical Raw Materials Act)」は、EU域内での戦略的原材料の採掘、加工、リサイクルの目標を設定し、単一の第三国への依存度を65%以下に抑えることを目指しています。これにより、供給源の多様化と国内能力の強化を図り、サプライチェーンの回復力を高めることを目的としています。

関連動向

近年、中国の輸出規制強化は、世界の重要鉱物市場に大きな影響を与えています。2025年1月15日、SEMIは、米国が特定の先進コンピューティングチップに25%の関税を課し、重要鉱物サプライチェーンの脆弱性を低減するための貿易交渉を開始する大統領布告を発表したことに対し、支持を表明しました。さらに、2025年11月13日には、中国が特定の重要鉱物および関連品目の輸出管理を一時停止すると発表しましたが、これは米国との経済・貿易関係に関する合意に基づくものであり、状況は流動的です。

専門家は、重要鉱物の供給は地政学的な緊張が高まる中で「最前線の問題」として浮上していると指摘しています。CSISの重要鉱物安全保障プログラムのディレクター、グレイスリン・バスカラン氏は、「最大の脆弱性は時間である」と述べ、採掘、加工、製造には何年もかかるため、数十億ドルが投入されても、サプライチェーンの支配が西側経済を脆弱にしていると分析しています。

まとめ

  • 中国の輸出規制の影響: 中国によるガリウム、ゲルマニウムなどの重要鉱物に対する輸出規制は、世界の半導体サプライチェーンに深刻な混乱をもたらし、供給途絶のリスクを顕在化させている。
  • 各国の政策的対応: 米国のCHIPS ActやEUのEuropean Chips ActおよびCritical Raw Materials Actは、国内生産能力の強化、研究開発への投資、サプライチェーンの多様化を目的とした重要な政策手段である。
  • サプライチェーンの多様化と国際協力: 特定国への依存を軽減するため、フレンドショアリング、アライショアリング、多国間パートナーシップによる供給源の多様化が不可欠となっている。
  • 気候変動リスクの増大: 干ばつなどの気候変動が、銅などの重要鉱物の供給に影響を与え、半導体製造の新たなリスク要因となっている。
  • 市場と技術の進化: 半導体産業の成長とAIのような新技術の発展は、より多くの多様な重要鉱物需要を生み出し、サプライチェーンの強靭化が経済的競争力と国家安全保障の双方にとって不可欠となっている。

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