パリ協定6条2項・6条4項定期アップデート/ COP30振り返り、JCMへの示唆
本記事では、2025年11月から12月にかけて発表された主要な炭素関連政策の動向に関し、以下の項目に沿ってお伝えします。
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- 政策動向
- パリ協定6条2項(二国間協力)
- パリ協定6条4項(パリ協定クレジットメカニズム)
- 各国炭素関連政策
- 非国家主体のイニシアチブ
- 考察記事
- COP30振り返り:自然系クレジットと、JCMも関わるパリ協定6条ルールの現在地
キーワード: 6条, 二国間協力,PACM, JCM, 自然系, COP30
本記事は、ミシェル・アピア(Business Development Manager)と梅宮知佐(Carbon Specialist)が執筆しています。
1. はじめに
本稿では、COP30後、この1ヶ月に見られた国際炭素市場を巡る主要な政策動向を整理するとともに、JCMの下で自然系プロジェクトを検討する日本企業にとって関わりの深い論点を解説します。
政策動向の章では、6条2項、6条4項メカニズム(PACM)、および、CBAMやETSを含む各国の炭素関連政策など、この期間に起きた主要な動きを紹介します。
後半の考察記事では、COP30を詳しく振り返ります。6条2項に関しては、初期報告に対する技術的専門家審査が、環境十全性確保のための新たなゲートキーパーとして機能し始めていることを受けて、JCMに参加する日本企業が留意しておくべき3点(承認・追跡体制、NDCとの整合性、方法論の保守性)を解説します。6条4項では、PACMルールとして自然系プロジェクトに対する「特別扱い」はなしと決まりました。JCMが、こういった国際的水準に近づくためには、プロジェクト実施者が、個別にJCMガイドライン以上の水準を追求する必要があること、そのコストを実施者だけが負い続けるのは持続的ではないため、制度としてJCMクレジットの価格を上げるなどバックアップする必要があるのではないか、といった点を説明しています。
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3. 政策動向
6条2項
COP30の開催以降、直近1か月間では、クレジット取引に向けた国際協力へのコミットメントの継続、対象プロジェクトのソーシングに関する進展、ならびにパリ協定6条への対応準備において、引き続き前向きな動きが見られました。
新たなパートナーシップの動きが見られました:
- エチオピアとシンガポールは、カーボンクレジットに関する協力のための覚書(MoU)を締結しました。これはエチオピアにとって初の6条2項に基づくカーボン取引に関する合意となります(出典)。エチオピアは2026年に国内カーボン市場規制を最終化し、2027年にはCOP32の開催を予定していることから、今後さらなる動きが期待されます(出典、出典)。JCMの観点では、エチオピアは2013年からのJCM署名国であるものの、これまで登録されているプロジェクトや承認された方法論がないため、今後の進展が注目されます (出典)。
- スイスは、ザンビアおよびモンゴルとの間で6条に基づく二国間実施協定を締結しました。これにより、スイスの協定締結国は計16か国となります。また、スイスはブラジルとも気候変動対策に関するパートナーシップ構築を目的とした覚書を締結しました(出典)。
- ノルウェーとセネガルは、COP30のサイドイベントで、6条に基づく二国間実施協定を締結しました。これは、ノルウェーが途上国における排出削減対策を支援するため、最大7.4億米ドルの拠出を発表したことを受けた動きです(出典)。
- スイスは、6条の野心を高めることを目的とした連合を立ち上げました。本連合は、自主的な排出削減の促進を目指すもので、ドイツ、ルクセンブルク、ノルウェー、スウェーデンなどが参加しています(出典)。
既存のパートナーシップにおいても、対象プロジェクトに関する新たな動きが見られました:
- シンガポールとブータンは、二国間実施協定の下で、プロジェクト募集を開始しました。産業、エネルギー、廃棄物管理の多くのプロジェクトが対象となる一方、GSとACRの森林・農業プロジェクトなどは対象外とされています(出典)。
- シンガポールとタイは、二国間実施協定の下で、対象プロジェクトと方法論の一覧を公表しました。対象となるには、Gold Standard、VCS、GCCなどの基準に基づく事前承認済みの特定方法論を用い、2021年から2030年の間にクレジットを発行する必要があります。しかし、高い森林被覆と低い森林減少(HFLD)プロジェクトは対象外とされており、VerraのVM0042などALM方法論の一部はケースバイケースで評価されます。 (出典)
6条4項
この1か月で6条4項を巡る動きが加速しており、パリ協定第6条第4項メカニズム(PACM)が、制度設計段階から初期的な運用フェーズへ移行しつつあることを示しています。
- 国連は、6条4項の下で初となる世界共通のサバンナ火災管理(Savanna Fire Management)方法論について、パブリック・コンサルテーションを開始しました。これは、これまで火災管理の重要性が議論されながらも、国際的なコンプライアンス枠組みが存在しなかった地域にとって、特に重要な進展です(出典)
- COP30では、京都議定書時代のクリーン開発メカニズム(CDM)から、約3,000万米ドルをPACMへ移行することに合意しました。PACMはこれまで資金不足が課題とされてきただけに、重要な一歩といえます(出典、出典)。
- G20が支援する「Common Carbon Credit Data Model (CCCDM)」というカーボン市場データモデルは、ボランタリー市場と国際市場のインフラ統合を目的としており、PACMのレジストリー規則が最終化され次第、これを組み込む計画を発表しました(出典)。
各国炭素関連政策
炭素価格付けおよび貿易関連の気候政策は引き続き進展しており、CBAM、ETS、カーボン市場規制に関する新たな動きが、企業のコンプライアンスコスト、市場へのアクセス、そして国際協力のあり方を再構築しつつあります。
CBAM
- 英国は、協議結果を踏まえ、2027年から炭素国境調整メカニズム(CBAM)を法制化する方針です。一方、EUは、EU ETSと英国の炭素市場を連結するための交渉マンデートに合意しました。英国企業は2026年1月に開始されるEU CBAMの対象となりますが、将来的に市場連結が実現すれば、長期的な貿易摩擦や炭素コストの低減につながる可能性があります(出典、出典)。
- CBAMは他国から批判や反発を受けています。例えばCOP30では、中国やインドなどが、CBAMはパリ協定を迂回する一方的な貿易措置だとして、EUに対し撤廃を求めたと報じられました。これに加え、インドは開発途上経済に不均衡な負担を与えるとしてCBAMの適用除外を要請しましたが、EUはこの要請を退ける方針です(出典、出典)。
ETS
- オーストラリア政府は、数年にわたる検討を経て、オーストラリア・カーボンクレジット(ACCU)向けの埋立地ガスの方法論の改定版を最終化しました。ベースラインが上昇型となるため、プロジェクトは同水準のクレジット発行を維持するには、時間の経過とともにメタン回収の改善が求められます。(出典)
- スイスは、来年の初めからそのCO2法の一部変更を発表し、スイスのETSをEUの制度に合わせることになりました。例えば、スイス連邦とCO2排出削減の協定を締結している高温プロセス施設の事業者は、一定の条件の下で、温室効果ガス削減の最低目標の引き下げを申請できるようになりました(出典)。
- 欧州委員会は、来年のEU ETSの改訂で、2030年以降、市場から引き出される許可証の削減がわずかに緩和される見込みであると確認しました。これは、エネルギー集約型産業に対する圧力を軽減し、脱炭素化への投資を促進することを目的としています(出典)。
その他の政策
- ネパール内閣は、環境保護法に基づく長年待たれていたカーボン取引規則を承認し、国際カーボン市場への参加への道を開きました。本規則は2019年に起草が開始されて以来、今回ようやく承認されたものです(出典、出典)。
- セネガルはカーボン市場の制度整備を加速させており、数か月以内に規制枠組みおよび国家炭素市場登録簿の整備を完了することを目指しています。これにより、アフリカにおいて拡大する6条市場の中で、先駆的な立場を築こうとしています(出典)。
- ガーナは、6条に基づく収益の新たな配分枠組みを提案しました。収益の5%を気候変動対策、グリーン産業の支援、政府運営に充てる内容で、本提案は現在審査段階にあり、まだ正式には承認されていません(出典)。
非国家主体のイニシアチブ
JCMを含む国際炭素市場メカニズムの実施について、より明確かつ迅速な運用を求める業界主導の連携も進んでいます。
日本企業数十社は、官民連携を通じて日本の農業分野における排出削減技術を海外展開する政府支援イニシアティブ「MIDORI INFINITY」を支援するため、「MIDORIコンソーシアム」を設立しました。FaegerやGreen Carbonなどのプロジェクトデベロッパーが農業分野のプロジェクトにおけるクレジット創出を担う一方、日本を代表する機械メーカーであるヤンマーは、水管理ソリューションや肥料使用効率の改善に取り組みます(出典)。
また、国際航空運送協会(IATA)は、日本およびマレーシア政府、ならびに主要な業界関係者とともに、6条の実施に向けた規制の迅速化をホスト国に求める共同声明を発表しました。これは、認可書(LoA)の発行促進や、CORSIA適格排出単位(EEU)の供給を円滑化することを目的としています(出典)。
4. (考察記事)COP30振り返り: 自然系クレジットと、JCMも関わるパリ協定6条ルールの現在地
6条2項:実施は前進、ただし技術的審査が新たなゲートキーパーに
6条2項に関するCOP30決議(link)は、各国による実施が着実に進んでいることを示しました。
- 39の協力的アプローチ
- 14カ国による承認
- 関連報告書の提出
といった進展が確認されています。
一方で、初期報告(Initial Report)に対する第1回技術的専門家審査(link)を通じて、6条2項の要件と各国の実務能力との間に、明確なギャップがあることも浮き彫りになりました。
ここでは、最初の審査対象国の一つであるガイアナの事例(link)を基に、その論点を整理します。ガイアナは、ART(TREES基準)下の管轄レベルREDD+を協力的アプローチとして報告しています。