植生回復プロジェクトにおけるアルベドの変化の考慮

植生回復プロジェクトにおけるアルベドの変化の考慮

株式会社sustainacraftのニュースレターです。

Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事では、炭素クレジットスタンダードのIsometricが公開した、植林プロジェクトにおけるアルベドの考慮に関する記事と、その背景にある研究について紹介します。

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(出所: Isometric Blog: Why albedo matters for reforestation projects,
Hasler et al. (2024): Accounting for albedo change to identify climate-positive tree cover restoration. 以下断りのない限り、情報の出所はこの記事および論文。)

はじめに

森林は大気中のCO₂を吸収・貯留する手段として、炭素市場において大きな注目を集めてきました。しかし、森林が気候に与える影響は炭素の吸収・貯留だけではありません。森林は地表面のエネルギーや水の循環にも重要な役割を果たしています。こうしたフィードバックの一つとして近年特に注目が高まっているのがアルベド変化です。炭素クレジットスタンダードであるIsometricは最近、自社の植林プロトコルおよびアグロフォレストリープロトコルにおいてアルベド変化を適格性の要件として組み込んでいることや、その背景にある考え方を紹介する記事を公開しました。本記事では、このIsometricの取り組みと、その判断の根拠となっている研究について紹介します。なお、上記のアグロフォレストリープロトコルについては以下のニュースレターでも紹介していますので、合わせてご覧ください。

Isometricの新しいアグロフォレストリー方法論のドラフト
2025年10月 Methodology Updates (1/2)

アルベドとは

アルベドとは、地表面に到達した太陽エネルギーのうち、宇宙空間に反射される割合のことです。一般に、明るい色の地表面(雪原、砂漠、裸地など)はアルベドが高く、太陽エネルギーの多くを反射します。逆に、暗い色の地表面(森林など)はアルベドが低く、太陽エネルギーをより多く吸収します。吸収されたエネルギーは熱に変換されるため、アルベドが低い=太陽エネルギーの吸収が多い状態は、地球の気温を上昇させる方向に働きます。暑い日に黒い服を着ると暑く感じるのと同じ原理です。

植林がアルベドに与える影響

植林プロジェクトでは、草地、裸地、あるいは雪に覆われた土地に木を植えます。森林の樹冠はこれらの地表面よりも暗い色をしていることが多いため、植林によって地表面が暗くなり、より多くの太陽エネルギーが吸収されることになります。これは温暖化の方向に働く効果です。

つまり、植林によってCO₂が吸収されるという冷却効果がある一方、アルベドの低下による温暖化効果も同時に生じます。プロジェクトが実際にどれだけ気候変動の緩和に寄与するかは、この両者のバランスによって決まります。後述するHasler et al. (2024) の研究では、レビューした植林プロジェクトのうち最大16%において、アルベド変化が炭素吸収による冷却効果を完全に打ち消してしまう可能性があると報告しています。

アルベドの変化による植林効果のオフセットのイメージ (Riley et al., 2025)

植林の気候影響はアルベドだけではない (補足)

なお、補足として、植林が気候に与える影響はアルベド以外にも複数あり、実際にはかなり複雑です。例えば、森林は蒸発散を通じて大気中に水蒸気を放出し、雲の形成や降水パターンに影響を与えます。Xu et al. (2022) は、衛星データを用いて森林が雲量に与える影響を全球的に分析し、その効果が地域によって大きく異なることを示しました。温帯や亜寒帯の森林の上空では雲が増加する傾向がある一方、アマゾンや中央アフリカ、米国南東部の森林上空ではむしろ雲が減少するという対照的なパターンが確認されています。雲の増加は太陽光を反射して冷却効果をもたらしますが、雲の減少は逆に温暖化の方向に働きます。こうした非放射的プロセスの影響まで含めた総合的な評価は、現在の科学でもまだ十分に確立されていないことに注意が必要です。

Isometricのアルベド考慮の考え方

Isometricは、植林プロトコルにおいてアルベド変化を適格性要件として導入した最初の認証機関です。同社のアプローチは以下の3つの原則に基づいています。

1. 気候変動の緩和を最優先する (Mitigating climate change)

炭素クレジットプロジェクトの最終的な目的は気候変動の緩和です。Isometricは、気候全体に対して正味の冷却効果をもつプロジェクトにのみ除去クレジットの証明書を発行する方針をとっています。アルベド変化による温暖化効果が炭素吸収による冷却効果を完全に相殺すると予測される場合、そのプロジェクトは気候変動の緩和に寄与しているとは言い難いため、そのようなエリアをプロジェクトに含めることはできません。

2. グローバルに適用可能で、かつ現地に即した判断を可能にする (Globally accessible but locally relevant)

Isometricのアプローチでは、後述するHasler et al. (2024) が開発したグローバルデータセットを活用しています。このデータセットは、植林による炭素吸収とアルベド変化の両方を考慮した正味の気候影響を特徴づけたものです。IsometricはこのデータセットをArea Suitability Checkというツールに統合しており、デベロッパーはプロジェクトの境界をアップロードするだけで、正味の温暖化効果が予測されるエリアがないかを即座に確認できます。

ただし、グローバルデータセットは複雑な地形や多様な土地被覆がある場所では十分に対応できない場合があることも認識されています。そのため、植林プロトコルでは、地域や局所的な科学的研究に基づく証拠によって正の気候効果を示すことも認められています。初期スクリーニングで正味の温暖化が示された場合でも、Haslerデータでモデル化された土地被覆変化がプロジェクトサイトを適切に代表しているかを確認し、必要に応じて分析を精緻化する仕組みとなっています。

3. 科学の進歩とともにアプローチを更新する (Evolving with the science)

最新の査読済みデータセットを活用する以上、科学的な不確実性が存在することも認識されています。Isometricは、Hasler et al.データセットを用いた初期スクリーニングにおいて、生態系タイプごとに不確実性を考慮した閾値を設定しています。これにより、炭素吸収による気候便益がアルベド変化によって完全に打ち消されることが強く示唆されるエリアのみを除外する運用となっています。今後、新たな研究やデータが利用可能になれば、アルベド以外のフィードバックも含めてアプローチを再評価・精緻化していく方針です。

市場の動向

Isometricのこうした取り組みは、科学コミュニティからの要請や市場内の需要とも一致しています。自然由来の炭素除去に注力するバイヤーグループであるSymbiosis Coalitionも、プロジェクトの品質基準にアルベド効果の考慮を含める同様の判断をしています。

アルベド変化を推定した研究の紹介: Hasler et al. (2024)

ここからは、Isometricのアルベド考慮の根拠となっているHasler et al. (2024): Accounting for albedo change to identify climate-positive tree cover restoration (Nature Communications) の内容をより詳しく紹介します。