中国の資源・技術覇権と欧州の防衛策:レアアース規制とNexperia問題の深層

中国の資源・技術覇権と欧州の防衛策:レアアース規制とNexperia問題の深層

調査対象: 中国のレアアース輸出規制、Nexperia、および第四回全体会議の動向(リンク

概要

本レポートは、2020年のMERICSレポートが指摘した中国のレアアース輸出規制とNexperia買収に関する懸念が、近年どのように激化しているかを分析します。中国による戦略的な重要鉱物および先端技術に対する支配力の強化は、世界のサプライチェーンに大きな影響を与え、特に欧米諸国は経済安全保障と技術主権を守るため、外国直接投資(FDI)審査の強化やサプライチェーンの多様化を加速させています。

主要ポイント

1. 中国によるレアアース輸出規制の戦略的強化と市場への影響

中国は2024年および2025年に数回にわたり、レアアースを含む複数の重要鉱物とその関連技術に対する輸出規制を導入しました。これらの措置は、世界のサプライチェーンに混乱をもたらし、特に防衛、半導体、電気自動車(EV)、再生可能エネルギーといった戦略分野に影響を与え、特定のレアアースの価格高騰を引き起こしています。

2. Nexperiaを巡るオランダ政府の介入と地政学的緊張

オランダ政府は2025年10月、中国企業Wingtech Technology傘下の半導体メーカーNexperiaの経営権を掌握するという異例の措置を取りました。これは、欧州の経済安全保障と技術主権、半導体の供給安定性に対する懸念に基づくものです。 この介入に対し、Wingtechは国際仲裁を求める構えを見せており、半導体を巡る地政学的対立の象徴的な事例となっています。

3. 欧州における外国直接投資審査の強化

Nexperiaの事例は、欧州連合(EU)が外国直接投資(FDI)審査メカニズムを強化する動きと連動しています。EUは、防衛、半導体、重要原材料などの機微な分野における外国投資、特に中国からの投資に対する審査を義務化し、統一された枠組みを導入することで、加盟国全体の経済安全保障を強化しようとしています。

背景・文脈

MERICSの2020年のブリーフは、中国がレアアースの輸出規制を強化し、Nexperiaのような欧州の主要テクノロジー企業への投資を通じてその影響力を拡大する可能性について警鐘を鳴らしました。これらの動向は、鄧小平が1992年に「中東には石油があるが、中国にはレアアースがある」と述べたように、中国がレアアースを戦略的資源と位置付けてきた歴史的背景に根差しています。 中国共産党第19期中央委員会第4回全体会議(四中全会)は、2020年当時のMERICSレポートでは、中国の長期的な経済・技術戦略を形成する文脈として言及されました。今日の進展は、これらの戦略が具体的な政策措置として顕在化し、国際的なサプライチェーンと地政学に深刻な影響を与えていることを示しています。

詳細分析

中国のレアアース戦略

中国は、世界のレアアース生産量の約60%を占め(2024年)、特に分離・精製段階では約91%の支配力を有しています。 この支配力は、レアアースを貿易交渉における「並外れたレバレッジ」として活用することを可能にしています。

輸出規制の推移と影響:

  • 2024年12月には、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモンといった重要鉱物の輸出が禁止されました。
  • 2025年4月には、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムを含む7つの重希土類元素および磁石に対し、輸出許可要件が導入されました。
  • 2025年10月9日には、さらに5つのレアアース元素、および中国産の材料を含む、または中国技術を使用して海外で製造された製品に対する輸出規制が発表されました。
  • しかし、米国との貿易協定の一環として、この最新の規制(10月9日発表分)は2026年11月10日まで1年間停止されることになりました。ただし、2025年4月の規制は依然として有効です。
  • これらの規制は、特にディスプロシウムやテルビウム市場で40%もの価格高騰を引き起こし、EVや防衛システムに必要な高性能永久磁石の製造に影響を与えています。
  • 2025年の中国のレアアース輸出総量は62,585トンに達し、前年比12.9%増と2014年以降で最高を記録しましたが、これは高価値の重希土類や磁石ではなく、主に低マージンの軽希土類が輸出量を押し上げた結果であり、中国は戦略的なレバレッジに焦点を当てています。
  • 2026年1月、中国は日本企業に対し、台湾を巡る危機における日本の軍事力行使の可能性への報復として、レアアースおよびレアアース磁石の輸出を停止したと報じられました。

環境への影響:
中国におけるレアアース採掘は、長年にわたり環境に深刻な被害をもたらしてきました。希土類元素の低濃度のため、採掘と精製には大量の化学薬品が使用され、土壌と水質の汚染、生態系の破壊、地域住民の健康問題を引き起こしてきました。 中国政府は環境規制を強化し、違法な採掘を停止するなどの対策を講じていますが、その修復には時間と費用がかかるとされています。

Nexperiaと欧州の技術主権

Nexperiaは、オランダのナイメーヘンに本社を置く半導体メーカーで、自動車、家電、通信、産業市場向けのディスクリート部品、MOSFET、アナログ&ロジックICを製造しています。 2018年に中国のWingtech Technologyに買収され、2021年に完全子会社化されました。

オランダ政府の介入:
2025年10月、オランダ政府は「財の可用性法」を発動し、Nexperiaの経営に介入しました。これは、当時のCEOである張学政氏のリーダーシップの下で「健全な経営に疑念を抱かせる正当な理由」があったこと、および半導体製品の欧州への供給可用性に関する懸念が複合した結果です。 米国は2025年6月にはすでに、NexperiaのCEOが中国籍であることに懸念を表明しており、Nexperiaが米国の輸出規制に抵触する可能性を警告していました。 実際、Wingtechは前年に米国の「エンティティ・リスト」に追加されており、Nexperiaもその影響を受けることになりました。

Wingtechの反発と中国の報復:
Wingtechは、オランダ政府の介入を「地政学的な偏見に駆られた過度な介入」と非難し、最大80億ドルの損害賠償を求めて国際仲裁に訴える準備を進めています。 中国商務省はこれに対し、Nexperia Chinaおよびその下請け業者に対し、中国で製造された特定の完成部品およびサブアセンブリの輸出を禁止する報復措置を取りました。 これは、特にドイツの自動車製造業にサプライチェーンの混乱をもたらす可能性があります。

関連動向

欧州におけるFDI審査の強化

EUは、中国からの投資、特に技術集約型産業における投資が増加する中で、FDI審査を強化しています。2025年12月には、理事会と議会が防衛、半導体、AI、重要原材料などの機微な分野における外国投資の審査を義務化し、より調和された手続きを導入する合意に達しました。 この動きは、EUの「デリスキング」政策の一環であり、中国との経済的・技術的関与に伴うリスクを管理することを目的としています。

西側諸国のサプライチェーン多様化への取り組み

中国の重要鉱物に対する支配力に対抗するため、米国、欧州、日本などの西側諸国は、サプライチェーンの多様化と国内生産能力の強化に積極的に取り組んでいます。これには、ノルウェーとの重要鉱物に関する覚書(米国、2024年)、G7行動計画、G7アライアンス、および日本との採掘・加工に関する枠組み合意(2025年)などが含まれます。 また、豪州や北米では、完全なバリューチェーン構築を目指すプロジェクトやオフテイク契約が増加しています。

まとめ

  • 中国の戦略的資源支配: 中国はレアアースを含む重要鉱物およびその加工技術において圧倒的な市場支配力を維持し、これを地政学的レバレッジとして活用しています。
  • 輸出規制の常態化と影響: 中国による輸出規制は、世界のサプライチェーンに恒常的な不確実性をもたらし、特に半導体やクリーンエネルギーといった戦略産業にコスト増と供給不安を引き起こしています。
  • 技術主権を巡る欧州の防衛: Nexperiaを巡るオランダ政府の介入は、欧州が技術主権と経済安全保障を積極的に防衛しようとする姿勢の表れであり、中国からの高まる投資圧力に対する新たな局面を示しています。
  • FDI審査の強化: EUは、重要分野への外国直接投資に対する審査メカニズムを強化し、より広範で統一されたアプローチを採用することで、域内の経済安全保障を確保しようとしています。
  • サプライチェーンの再構築: 西側諸国は、中国への依存を減らすため、代替供給源の確保、国内生産能力の構築、国際的な協力体制の強化を通じて、よりレジリエントなサプライチェーンの構築を加速しています。

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