米国のUNFCCC脱退、経済と気候協力への影響

米国のUNFCCC脱退、経済と気候協力への影響

調査対象: 米国の気候協力からの後退が経済を損なう:UN気候変動担当事務局長による米国に関する声明(リンク

概要

2026年1月7日、米国はドナルド・トランプ大統領の行政命令により、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)および気候科学の主要機関である気候変動に関する政府間パネル(IPCC)を含む66の国際機関からの再度の撤退を発表しました。これに対し、UN気候変動担当事務局長のサイモン・スティール氏は、この動きが米国経済、雇用、生活水準を損なう「甚大なオウンゴール」であると強く非難しました。この撤退は、国際的な気候変動対策とボランタリーカーボンマーケット(VCM)に広範な影響を及ぼすと懸念されています。

主要ポイント

1. 国際気候協力からの再度の脱退

トランプ政権は2026年1月7日にUNFCCCおよびIPCCを含む66の国際機関からの撤退を発表しました。これにより、米国はUNFCCC条約から脱退する世界で唯一の国となります。今回の撤退は、2025年2月に発令された行政命令に基づくもので、国際協定を米国経済およびエネルギー部門の発展と適切にバランスさせていないと批判するトランプ大統領の姿勢を反映しています。

2. 米国経済と雇用への悪影響

UNFCCC事務局長のサイモン・スティール氏は、気候協力からの後退が米国の経済、雇用、生活水準に悪影響を及ぼすと警鐘を鳴らしています。他の主要経済国がクリーンエネルギーへの投資を強化し経済成長を推進している中、米国がこの流れに逆行することは、より高価なエネルギー、食料、輸送、保険コストにつながる可能性があります。さらに、気候変動による災害が激化するにつれて、米国はより大きな被害を受けると指摘されています。

3. ボランタリーカーボンマーケット(VCM)への影響

米国の政策転換は、VCMに大きな不確実性をもたらします。政府の気候目標への支持が欠如すると、企業は炭素オフセットへの投資から離れる可能性があり、カーボンクレジットの需要が減少する恐れがあります。しかし、VCMは政府の指令に依存しない性質を持つため、その回復力が過去の経験から示唆されており、州、都市、企業といったサブナショナルアクターの取り組みが市場の下支えとなる可能性もあります。

4. 国際的リーダーシップの喪失と外交的孤立

今回の撤退は、米国の国際社会における気候変動対策のリーダーシップを完全に放棄するものです。これにより、中国などの他国が気候変動外交における主導権を握り、米国は国際的な気候変動資金(例えばグリーン気候基金)の運用に関する発言権を失うことになります。専門家は、米国の外交的孤立が、世界の排出量削減努力を妨げ、他国に自国の行動を遅らせる口実を与える可能性があると警告しています。

背景・文脈

米国の気候政策は、政権交代によって大きく変動してきました。ジョージ・H・W・ブッシュ大統領が1992年にUNFCCCに署名して以来、ビル・クリントン大統領による京都議定書署名(批准せず)、ジョージ・W・ブッシュ大統領の京都議定書離脱、バラク・オバマ大統領によるパリ協定へのコミットメント、ドナルド・トランプ前大統領によるパリ協定からの離脱、そしてジョー・バイデン大統領による再加入といった変遷を辿っています。
トランプ政権は、気候変動を「詐欺」と見なし、化石燃料生産の拡大と環境規制の緩和に焦点を当てた「エネルギー優位性」政策を推進してきました。今回のUNFCCCからの撤退は、彼の2期目の最初の行政命令の一つであり、以前の政策の一貫性を示すものです。

詳細分析

撤退の法的・制度的側面

UNFCCCからの撤退は、パリ協定からの自動的な脱退を意味します。なぜなら、パリ協定の締約国であるためにはUNFCCCの締約国である必要があるためです。米国は1992年にUNFCCCを批准しており、今回の撤退は、条約の規定上、通告から1年後に発効します。この一方的な撤退の合法性については、法学者の間で議論があります。

排出量削減目標 (NDC) への影響

今回の撤退により、米国のNDC(国が決定する貢献)は事実上無効となり、米国が国際的な排出量削減目標を達成することは困難になると予想されます。米国は歴史的に見て、世界の累積CO2排出量において最大の責任を負う国であり(1850年から2025年までに5420億トンのCO2を排出、これは世界の排出量の20%以上にあたる)、その離脱は地球温暖化をさらに0.1℃上昇させる可能性があると推定されています。

気候変動資金援助 (Climate Finance) への影響

UNFCCCからの脱退により、米国はグリーン気候基金(GCF)や地球環境ファシリティ(GEF)などの国際気候資金メカニズムにおける議席と発言権を失います。過去のトランプ政権下では、国際援助機構が解体され、気候変動資金へのコミットメントが撤回されました。これにより、気候変動に対して脆弱な開発途上国への資金援助が削減され、その必要性が高まる中で、国際的な資金ギャップが拡大する懸念があります。

サブナショナルアクターの役割とVCMの回復力

連邦政府の政策転換にもかかわらず、カリフォルニア州、ニューヨーク州などの多くの州、都市、企業は独自の気候変動対策を継続しています。4,000以上の市長、知事、大学学長、ビジネスリーダーが「We Are Still In」宣言に署名し、連邦政府の介入なしでもパリ協定の排出量削減目標を達成することにコミットしています。VCMは政府の規制から独立している部分が大きく、企業によるサステナビリティへのコミットメントや、インフレ抑制法(IRA)などの既存のインセンティブによって、引き続き投資が促される可能性があります。

関連動向

他国の反応

EUの気候・ネットゼロ・クリーン成長担当委員であるヴォプケ・フークストラ氏は、UNFCCCが世界の気候変動対策を支えるものであり、米国が離脱することはリーダーシップを他国に譲り渡すことになると批判しました。カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、トランプ政権の国際会議への不参加を「忌まわしい」と表現し、中国などの競争相手に主導権を譲るものだと非難しています。

VCMのレジリエンス

過去のトランプ政権によるパリ協定からの離脱は、VCMの成長を大きく妨げることはありませんでした。2016年から2021年の間に、VCMは取引量と資金提供されるプロジェクトの範囲の両方で顕著な拡大を経験しています。これは、企業が自主的にオフセットを購入し、排出量削減目標を追求し続けたためです。現在のVCMは、以前よりも頑健で透明性の高いプロジェクトへと市場が改善される機会と捉える専門家もいます。

まとめ

  • 米国の国際協力からの撤退: 2026年1月、米国はUNFCCCおよびIPCCを含む66の国際機関から再度の撤退を発表し、世界の気候変動対策において外交的に孤立する立場となりました。
  • 経済的影響: UNFCCCは、この撤退が米国の経済、雇用、生活水準に悪影響を及ぼし、高コストや気候災害の激化につながると指摘しています。
  • VCMへの影響: 連邦政府の気候変動対策への支持の欠如は、VCMにおける企業の炭素クレジット需要を減退させる可能性がありますが、市場の自主性やサブナショナルアクターの継続的な取り組みが一定の回復力を提供する可能性があります。
  • 国際的リーダーシップの喪失: 米国が国際的な気候変動対策の主導権を放棄することで、他国、特に中国がその空白を埋め、気候変動資金のガバナンスにおける米国の影響力が低下するでしょう。
  • 過去からの教訓: 過去のパリ協定離脱の経験から、VCMは政府の政策に左右されにくい回復力を持つことが示唆されていますが、今回のUNFCCCからの撤退はより広範な影響を及ぼす可能性があります。

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