パリ協定6条2項・6条4項定期アップデート

パリ協定6条2項・6条4項定期アップデート

本記事では、2025年12月から1月にかけて発表された主要な炭素関連政策の動向に関し、以下の項目に沿ってお伝えします。

  • 政策動向
    • パリ協定6条2項(二国間協力)
    • パリ協定6条4項(パリ協定クレジットメカニズム)
    • 各国炭素関連政策
    • 非国家主体のイニシアチブ
  • UNFCCC Registry Updates

キーワード: 6条, 二国間協力,PACM,  JCM, 自然系, COP30


1. はじめに

政策動向: 2025年12月から2026年1月にかけて、パリ協定6条の実装は制度面、政策面、実務面のすべてで大きく前進しました。ブラジルやシンガポールを含む二国間および多国間協定の拡大、6条4項ルールの精緻化、EUにおけるCBAMの本格運用、さらに非国家主体を巻き込んだ新たなパートナーシップの形成を通じて、国際炭素市場は明確な移行段階に入りつつあります。以下では、こうした動きを6条2項、6条4項、各国政策、非国家主体のイニシアチブの4つの観点から整理します。

UNFCCC Registry Updates :2025年10月から2026年1月にかけて、UNFCCCレジストリには多数の重要な提出がありました。特に、パリ協定の「強化された透明性枠組み(ETF)」に基づく第1回隔年透明性報告書(BTR)の提出ラッシュと、次期NDC 3.0(2035年目標など)の提出が本格化しています。今回は、特にJCMパートナー国、具体的にはインドネシア、タイ、サウジアラビア、モンゴル、バングラデシュ、ラオス、スリランカなどから提出されたNDCやBTR、Article 6.2初期報告書の概要を紹介します。


2. 政策動向

6条2項

2025年12月から2026年1月にかけての6条2項の動向では、COP後の流れを受けて、新たな二国間協定に加え、三国間協定も登場しました。シンガポールは、新たな協定の締結や承認済みプロジェクトリストの公表を通じて、引き続き中心的な役割を果たしました。一方、アフリカでは動きが加速し、ザンビアやジンバブエで新たな協定や制度整備が進み、国際協力に向けた前進が見られました。また、日本はJCMを通じて、政策対話と具体的なプロジェクト形成を組み合わせながら、6条2項の実施を引き続き強化しています。

以下の新たな協定が発表されました:

  • ブラジルは、シンガポールおよびスイスと、5年間有効な三国間の覚書(MoU)を締結しました。実際の実施は二国間レベルで行われ、6条2項を活用しながら、ベストプラクティスの共有や共同での取り組みが進められる予定です。[出典].
  • ザンビアスイスは、ブラジルで開催されたCOP30において原則合意された二国間実施協定を今年1月に正式に発効させました。これは、過去2年間でザンビアにとって3件目の二国間協定となります [出典]。

今後締結予定の二国間協定に関する動きも報じられました:

  • ジンバブエは、シンガポールスイスマレーシアを含むいくつかの国と6条2項に基づく炭素クレジット取引の二国間協定の交渉を開始しました [出典]。

プロジェクトリスト承認に関する進展が見られました:

  • シンガポールは、ベトナムとの二国間実施協定の下で「事前承認済み」の対象プロジェクトと方法論の一覧を公表しました。 対象となるレジストリーは、GS(Gold Standard)、Verra、ACR(American Carbon Registry)、GCC(Global Carbon Council)、ART-Treesです。プロジェクトについては、REDDのHFLDアプローチ(森林被覆率が⾼く森林減少率が低い)は対象外ですが、IFM(VM0042)や潮汐湿地と海草再生(VM0033)など、多くの自然由来プロジェクトが対象となっています[出典]。

日本との二国間パートナーシップが進展しました:

  • 日本の環境省は、JCMにおける6条2項の実施およびプロジェクト創出を目的としたフォーラムをタイで共催しました。本フォーラムには、官民の関係者が参加し、プロジェクト形成の加速について議論が行われました。これは、2025年後半にパリ協定の仕組みとして初めてJCMクレジットが発行されたことを受けた動きです [出典]
  • ブラジル日本は2025年12月に、ブラジルにおける劣化した牧草地や農地の回復に関する協力を強化する意向を示す意向表明書(LOI)に署名しました。[出典]
  • モルディブ日本のJCM第5回合同委員会が、炭素クレジット事業に関する協力強化を目的として、・モルディブの首都であるマレおよびオンラインで開催されました[出典]

6条4項

CDM(クリーン開発メカニズム)は2026年末で終了予定となっており、6条4項の制度をより強固なものにする動きが進んでいます。

国連の専門家パネルである方法論専門家パネル(Methodology Expert Panel, MEP)は、6条4項のクレジットの永続性フレームワークに用いるための新たなリバーサルリスク評価ツールの開発を進めるとともに、CDM方法論の改良にも取り組んでいます[出典]

また、MEPは、新しい方法論に関するステークホルダーからの意見募集も実施しており、結果は2026年前半に公表される予定です。この意見募集では、バッファープールへの拠出の扱いや、それに対して相当調整(CA)を求めるべきかどうかが論点となっています [出典, 出典]。今回の協議は、非常に重要なタイミングで行われています。特に研究者の間では、現在の6条のルールには永続性などを中心に不十分な点があるとの懸念が高まっています。過去の制度からの教訓が十分に反映されなければ、環境の完全性を損なう抜け道が生じるおそれがあると指定されています [出典]

各国炭素関連政策

2025年12月から2026年1月にかけて、CBAMや気候変動法案など、いくつかの制度が正式に開始・承認されました。また、カーボン市場への参加拡大と透明性向上を目的として、既存制度の改定も行われました。

炭素国境調整メカニズム(CBAM)に関する動きは特に1月に見られました:

  • EUのCBAMは、2026年1月に本格稼働しました。これにより、高排出品目の輸入業者は、排出量の報告のみならず、排出量の申告とCBAM証書の購入が必要となりました [出典]。欧州委員会は、2025年12月にCBAMに関する実施規則および詳細ルールの一式を公表しました [出典]。
  • 米国の民主党議員は、国内メーカーの保護と気候目標を貿易政策に組み込むことを目的として、炭素集約度の高い輸入品に炭素関税を課す「クリーン競争法(Clean Competition Act)」を再提出しました。これは、EUのCBAM導入準備を背景とした動きです [出典]

アジアと中南米では、排出量取引制度(ETS)に関する動きがありました:

  • 韓国は、価格変動を理由に、排出権無償割当の算定における炭素クレジット価格の考慮を廃止する排出量取引法の改正を行いました [出典]
  • ブラジルは、排出量取引制度(SBCE)の改善に向けた提言や助言を行うことを目的として、常設の技術諮問委員会(CTCP)を設置しました [出典]。
  • タイ内閣は、カーボンクレジット取引制度の創設を含む気候変動法案を承認しました。本法案では、義務的なETSの導入に加え、一部の製品に対するCBAMや炭素税の導入が盛り込まれています [出典]。
  • 日本の経済産業省は、新たな国内排出量取引制度(GX-ETS)について、2026年4月から本格稼働する方針を示しました。これに伴い、取引ルールや登録ガイドラインの確定、対象企業に向けた準備対応が進められています (出典)。

他にも各国で政策面の動きがありました:

  • ニジェールは、6条4項に基づく新たな国際炭素市場への参加枠組みを正式に示し、国連のカーボンクレジット制度を持続可能な開発の主要な資金調達手段と位置付けました [出典出典]。
  • オーストラリアの炭素市場健全性委員会は、改良版の在来森林管理(Improved Native Forest Management (INFM))方法論のドラフトを公表し、今後正式な意見募集を行う予定です [出典]。

非国家主体のイニシアチブ

民間企業、国際機関およびレジストリーが関与する新たな戦略的パートナーシップが生まれ、脱炭素の加速や、高品質なカーボンクレジットと適切な気候ファイナンスの動員を目的とした動きが見られました。

レジストリーおよび認証機関は、他の民間企業と連携しています:

  • 三井商船(MOL)は、ネットゼロ目標に向けて、CDRクレジットの発行における科学的な厳密性と透明性を確保するため、Isometricと提携しています [出典]。
  • ドバイを拠点とするカーボンクレジット認証機関「Global Carbon Council(GCC)」は、政府間組織である「アジア森林協力機構(Asian Forest Cooperation Organization: AFoCO)」と提携しました。2,160億ドルの気候資金を活用し、アジア全域で自然由来のプロジェクト」および信頼性の高いカーボンプロジェクトの拡大を目指します [出典]。

政府支援を受けた主要なパートナーシップが進展しました:

  • 国連開発計画(UNDP)は、スイス連邦環境庁と連携し、6条2項に基づく国際的に移転される緩和成果(ITMOs)の供給に関する民間セクター向けの関心表明募集を開始しました。本取り組みは、ジンバブエを含む署名国において、高い環境完全性を持つ削減プロジェクトを促進し、民間セクターの参画とクレジット供給の拡大を目的としています[出典]。
  • 非国家主体による気候行動領域(Non-State Actor Zone for Climate Action (NAZCA) )の再構築の一環として、NAZCA Networkという新たな連携戦略が示されました。この戦略は、気候行動に関する情報や分析、取り組みの評価を、パートナーと直接つなぐことを目的としています。ワークショップやアウトリーチ、連携を通じて、地域や民間セクターの取り組みを強化し、相互に学び合うコミュニティの形成を目指しています [出典]

3. UNFCCC Registry Updates

昨年10月以降、インドネシア、タイ、サウジアラビア、モンゴル、バングラデシュ、ラオス、スリランカなど、多数のJCMパートナー国が野心的なNDCや詳細なBTR、Article 6.2初期報告書を提出しました。これらの提出文書からは、各国の排出削減計画におけるJCM(二国間クレジット制度)や国際炭素市場への期待が明確に読み取れます。特に、条件付き目標(国際支援を前提とした削減)を掲げる国が多く、JCMプロジェクト組成の機会が拡大しています。