パリ協定6条定期アップデート/SBTi企業ネットゼロ基準 v2
デロイト トーマツ サステナクラフト株式会社のニュースレターです。本記事はVCM Updates(ボランタリーカーボンマーケットのアップデート)のセクションB(政策動向編)です。
はじめに
今月のハイライト(考察記事)では、SBTi「企業ネットゼロ基準 (CNZS) v2.0」の発表を受け、自然系カーボンクレジットの行方を整理します。鍵を握るのは「カーボン耐久性」。除去系か削減・回避系かによって、自然系クレジットの位置付けは大きく変わってきます。
以下の流れに沿ってお伝えします。
- 政策動向
- 海外の主要規制の動向
- パリ協定6条2項(二国間協力)
- パリ協定6条4項(パリ協定クレジットメカニズム)
- 各国炭素関連政策
- 非国家主体のイニシアチブ
- UNFCCC Registry
- 海外の主要規制の動向
- 考察記事
- SBTi「企業ネットゼロ基準 v2.0」- バリューチェーン外の自然系クレジットはどうなるのか
キーワード: 6条, 二国間協力, PACM, SBTi, CNZS
1. 海外の主要規制の動向
パリ協定第6条2項関連
第一のハイライトは、新たにJCMにおけるITMO(国際的に移転される緩和成果)の国際移転が完了したことです。日本とモンゴルのJCMの下、4件の再エネ(太陽光)プロジェクトから、合計約8万6千トンが移転されました(出典)。
他国においても供給・協力体制の整備が進んでいます。
- ブラジルは、遅れていたITMO規制のドラフトテキストのパブリックコンサルテーションを開始しました(出典)。2024年末に第2次NDCで6条活用の意向を表明して以来、供給ポテンシャルの高い南米の代表国として注目されてきましたが、法的枠組みが前進したことで本格的な案件創出が期待されます。公開された決議案によると、ブラジル政府は2031年から2035年の期間において、最大5,000万トン(50 MtCO2e)のITMOを国際市場へ移転・売却できるように認める方針を打ち出しています(出典)。
- UNIDO(国際連合工業開発機関)は、アフリカにおけるJCM案件の募集を開始しました(出典)。これまでアジアに偏重していたJCMが、アフリカへと広がりを見せています。
- インドネシアとシンガポールは、カーボンクレジットの協力に関するMoUに署名しました(出典)。同MoUには、質の高いカーボンプロジェクトの特定や6条の二国間協力に向けた活動が含まれています。
パリ協定第6条4項関連
パリ協定第6条4項(新メカニズム:PACM)に関しては、旧メカニズムからの移行プロセスが大きな山場を越えました。
今月、CDMプロジェクトのPACMへの移行申請期限(2026年6月30日)が到来しました。
- 特に、中国やインドが自国のNDC達成を優先して多くの承認を見送ったため、短期的な供給が一部の国に集中する懸念が生じています(出典)。
- 未移行のCDMクレジットは2027年7月1日にキャンセルされる予定であり、市場の流動性への影響が注視されます。
一方で、PACMの下、新規案件創出に向けたルール整備も進展しています。
- 監督機関(Supervisory Body)は、新たに2つの方法論(Methodologies)を勧告しました(出典)。
- 国連による草案では、初回移転およびリアルタイム報告のルールが策定され、事務手続きのデジタル化が進んでいます(出典)。
各国炭素関連政策
2026年7月、欧州およびオセアニア、アジアにおいて炭素価格設定(Carbon Pricing)と市場統合の議論が深まりました。
- EU ETS(域内排出量取引制度)の改革議論:
- CBAM(炭素国境調整措置):
- 炭素除去(Carbon Removals)の統合:
- ニュージーランドは、ETSに炭素除去を統合するための法改正案を導入しました(出典)。これは、ネットゼロ達成に向けて除去技術を市場に組み込む先駆的な事例となります。
- アジアの動向:
- 台湾は、2028年までにETSのパイロットフェーズを開始する計画を発表しました(出典)。
非国家主体のイニシアチブ
2026年上半期の振り返りと共に、ボランタリーカーボン市場(VCM)の「質へのシフト」を裏付けるデータが相次いで発表されました。
今月の分析結果(Sylvera/Abatable)によると、2026年上半期のVCMは「償却量は微減したが市場価値は上昇」というトレンドを示しました(出典1、出典2)。
- これは購入者がCCP承認済みクレジットなどの高品質なものを優先的に選択し、価格プレミアムを支払っている結果と分析されています。
- 過去10年間続いてきた供給過剰(Oversupply)の状態が、過去2年間で解消に向かっていることも指摘されています。
イニシアチブの動向:
- SBTiは、電力セクター向けのネットゼロ基準の最新ドラフトに関する意見募集を開始しました(出典)。
- ICVCMは、高整合性市場のナビゲートに向けた新ガイダンスを発表し、引き続き市場の規律付けを強化しています(出典)。
- 農業分野では、VCMIの支援を受けたPAC(Partnership for Agricultural Carbon)が、ラテンアメリカ等で炭素金融を活用した気候レジリエントな農業の推進に乗り出しました(出典)。
2. UNFCCC Updates
今月、UNFCCCレジストリへの提出は合計2件でした。内訳は、隔年透明性報告書(Biennial Transparency Report, BTR)が1件、パリ協定第6条2項に基づく年次情報報告書(Annual Information Report)が1件となっています。
NDC(国が決定する貢献)関連
対象期間において、新規または更新されたNDCの提出はありませんでした。
BTR(隔年透明性報告書)関連
リベリア (LBR) - 第1回 隔年透明性報告書(First BTR)
- 提出日: 2026-07-07(出典)
- 概要: リベリアによる初のBTR提出です。パリ協定下の「強化された透明性枠組み(Enhanced Transparency Framework, ETF)」に基づき、自国の排出状況とNDC達成に向けた進捗を報告しています。
Article 6.2 関連報告
ガーナ (GHA) - 年次情報報告書(Annual Information Report v1.0)
- 提出日: 2026-06-26(出典)
- 分析:
- 承認実績: ガーナ政府は、協力アプローチ(Cooperative Approach ID: CA0002)に基づき、農業セクターにおけるメタン回避(Methane avoidance)活動から生じる緩和成果を承認しました。
- 承認量: 2021年から2030年の対象期間に対し、1,125,655 t-CO2eq という大規模な量が承認されています。
- 実施体制: 国連開発計画(UNDP)ガーナ事務所が承認された事業体として関与しており、国際機関と連携した第6条活用のモデルケースとなっています。
- レジストリ管理: ITMOsのユニーク識別子を用いた追跡システムが稼働しており、初回移転(First International Transfer)の定義についても明確に記載されています。
3. 考察記事:SBTi「企業ネットゼロ基準 v2.0」- バリューチェーン外の自然系クレジットはどうなるのか
はじめに
Science Based Targets initiative(SBTi)の「企業ネットゼロ基準」は、企業が気候科学に基づきネットゼロ目標を設定するための代表的な基準であり、日本でも2千社を超える企業が参画しています(出典)。2026年6月、SBTiはこの改訂版「Version 2.0」を発表しました(出典、2027年2月1日発効)。
今回の改訂の核心の一つは、従来の基準では自主的推奨に過ぎなかった「バリューチェーン外の緩和(BVCM)」を、「Ongoing Emissions Responsibility(継続的な排出責任、以下OER)」という段階的な制度に置き換えたことです。このOERでは、カーボンの「耐久性」を重視し、2027年からの任意フェーズと、2035年以降の義務化フェーズとで求められるポートフォリオ構築が大きく異なります。これは自然系カーボンクレジットの開発・調達を進める企業にとって、無視出来ないシグナルの一つと言えると思います。
以下、この結論に至る根拠を、①OER導入の背景と概要、②2035年以降の義務化フェーズ、③直近の任意フェーズ、④各界の反応の順にご説明します。
1. BVCMからOER導入の背景と概要
企業は、2050年またはそれより早期のネットゼロ目標(スコープ1〜3を含む)を達成するまでの間、継続的にGHGを排出することになります。SBTiはこの「継続的な排出」について、企業が自社目標とは別に他の緩和成果や気候行動を支援すること(=「気候貢献(climate contribution)」)を促す枠組みを設けてきました。