SBTi企業ネットゼロ基準V2.0:セカンドドラフトの主要更新点
出所: Science Based Targets initiative (SBTi)「SBTI CORPORATE NET-ZERO STANDARD VERSION 2.0 Draft for Second Public Consultation」(リンク)
概要
SBTiは、企業ネットゼロ基準のバージョン2.0セカンドコンサルテーションドラフトを公開しました。これは、2025年3月に発表された初回ドラフトから大幅に更新されており、特にスコープ1の目標設定アプローチの多様化、スコープ2の排出量削減における整合性の強化、継続的な排出量に対する企業の責任の義務化など、ネットゼロ達成に向けた企業の取り組みの信頼性と実効性を高めるための重要な変更が盛り込まれています。本ドラフトは、2025年12月8日までフィードバックを募集しており、2028年1月1日からは全企業にVersion 2.0の利用が義務付けられます。
主要ポイント
1. スコープ1目標設定アプローチの多様化
初回ドラフトでは絶対量削減アプローチのバリエーションが提案されていましたが、セカンドドラフトでは「資産脱炭素化計画(Asset Decarbonization Plan)」が新たなオプションとして導入されました。これは、資本集約型資産の脱炭素化における業界固有の現実を反映し、企業がより柔軟かつ科学的根拠に基づいた目標設定を可能にするものです。
2. スコープ2排出量削減の整合性強化
スコープ2の低炭素電力目標設定において、初回ドラフトで提示されたゼロカーボン電力への転換に加え、セカンドドラフトでは物理的到達可能性、時間的整合性、発電施設の稼働/再稼働日制限などの厳格な要件が詳細に規定されました。特に、2030年からは時間的整合性の段階的導入が求められ、低炭素電力調達の信頼性が大幅に向上します。
3. 継続的排出量に対する責任の義務化
初回ドラフトでオプションとして提案されたBVCM(バリューチェーンを超えた緩和)の認識プログラムが、セカンドドラフトでは「認識済み」と「リーダーシップ」の2段階の認識メカニズムに具体化されました。さらに、2035年からはカテゴリA企業に対し、継続的な排出量の一部に対して責任を負うことが義務付けられ、ネットゼロ目標達成時には残余排出量の100%中和が求められるようになります。
詳細
SBTi企業ネットゼロ基準Version 2.0(初回コンサルテーションドラフトとセカンドコンサルテーションドラフト)の主な変更点は以下の通りです。
| 項目 | 初回コンサルテーションドラフト (March 2025) | セカンドコンサルテーションドラフト (November 2025) |
|---|---|---|
| 発行日 | March 2025 | November 2025 |
| スコープ1目標設定 | Absolute Contraction Approachの2つのバリエーションを提案 (Asset Decarbonization Planは未記載) | Asset Decarbonization Planを明示的に導入 (C11.2.c, Box 1)し、より柔軟なアプローチを提供 |
| スコープ2目標設定 | ゼロカーボン電力目標への転換、地理的マッチングの必要性を提示 | 物理的到達可能性、時間的整合性、稼働/再稼働日制限を詳細に規定。2030年からの時間的整合性の段階的導入を明記 (C16) |
| 継続的排出量責任 | BVCMの「追加的認識」(オプション)を提案 | 「認識済み」「リーダーシップ」の2段階認識メカニズムを導入し、2035年からはカテゴリA企業に義務化 (Box 4, C28) |
| ネットゼロ時の中和 | 除去の耐久性要件について「検討中」として2つのオプションを提示 | 残余排出量の41%を長期除去とし、59%を短期または追加の長期除去とする義務的要件を提示 (C29.2) |
| GHGインベントリの除外 | V2.0では除外を認めない方針 (現行V1.2では5%まで許容) | V2.0では除外を認めない方針を明確化 (C5.1) |
| スコープ3長期目標 | 近期目標に加えて長期目標を義務化するか「検討中」と記載 | 2050年までに設定を要求 (C10.2.b) |
| V2.0適用開始時期 | 2027年からの適用を意図 | 2028年1月1日から全ての企業に義務化 (page 15) |
| コンサルテーション期限 | 2025年6月1日 | 2025年12月8日 |
- ネットゼロ目標の構成と期間: 全てのスコープ(1、2、3)で1.5°Cの地球温暖化に沿ったパスウェイに整合するネットゼロ目標の設定を要求。カテゴリA企業はスコープ1と2の長期目標、および5年ごとの短期目標を設定する必要があります (PDF1, C10.2, C12)。
- GHGインベントリと第三者保証: GHGプロトコル基準に沿った包括的なインベントリ作成が求められ、Version 2.0では排出量の5%未満の除外も認められなくなります。また、カテゴリA企業にはGHG排出量インベントリの第三者限定的保証が義務付けられます (PDF1, C6.1, C7.1)。
- データ品質の向上: 企業は、排出量データのトレーサビリティを2035年までに排出量集約型活動で、2050年までにその他の排出源で完全に実現するための計画を策定し、実行することが求められます (PDF1, C10.2)。
- スコープ3目標設定の重点化: 以前の基準のパーセンテージベースの閾値(近中期目標で67%、長期目標で90%)から、最も排出量集約的な活動と最も影響力の大きい分野(ティア1サプライヤーなど)に優先的に焦点を当てるアプローチに移行しました。 (PDF1, C17.1, C18.1)。
- エネルギー属性証明書(EACs)の活用: スコープ1、2、3目標の達成を補完するために、EACsの利用に関する「高レベルの整合性原則」が示されており、特にスコープ2では物理的到達可能性や時間的整合性といった厳格な要件が加わります (PDF1, ANNEX E, C16)。
- 政策提言への関与: 企業は、ネットゼロの目標と整合性のある公共政策への関与、ロビー活動、アドボカシー努力を徹底することが推奨されています (PDF1, R1.2)。
- 進捗の評価と目標更新: 企業は、各目標サイクルの終了時に目標に対する進捗状況を評価し、ネットゼロベンチマークとのギャップを特定した上で、新しい目標を設定する必要があります (PDF1, C33)。
まとめ
SBTi企業ネットゼロ基準Version 2.0のセカンドコンサルテーションドラフトは、企業がネットゼロ目標を設定し、実行する上での信頼性と透明性をさらに強化するための重要な一歩です。特に、スコープ1の柔軟な目標設定、スコープ2の厳格な低炭素電力調達基準、そして継続的な排出量に対する責任の義務化は、企業がより実効性のある気候変動対策を講じる上で大きな影響を与えるでしょう。SBTiはステークホルダーからのフィードバックを積極的に取り入れ、基準の最終版を策定していく方針です。