パリ協定6条2項・6条4項定期アップデート/JCMとEU CBAM

パリ協定6条2項・6条4項定期アップデート/JCMとEU CBAM

デロイトトーマツ サステナクラフト株式会社のニュースレターです。本記事では、2026年5月中旬から6月中旬にかけての主要な炭素関連政策の動向について、お伝えします。

はじめに

今月取り上げるハイライトは、EU CBAM草案規則によりJCMクレジットが日本企業にとって新たなコンプライアンス手段になり得るという点であり、その前提と課題を考察記事で整理します。

以下の流れに沿ってお伝えします。

  • 政策動向
    • パリ協定6条2項(二国間協力)
    • パリ協定6条4項(パリ協定クレジットメカニズム)
    • 各国炭素関連政策
    • 非国家主体のイニシアチブ
    • UNFCCC Registry
  • 考察記事
    • JCMクレジットとEU CBAM - JCMクレジットの新たな活路可能性

キーワード: 6条, 二国間協力, PACM, JCM, CBAM


1. 海外の主要規制の動向

パリ協定第6条2項関連

日本とパラオの間でJCMクレジットの初の国際移転が完了しました(出典)。これはパリ協定の下で実際に緩和成果(ITMOs)が国境を越えて移転され、相当調整が行われるための実務上の重要なステップです。

一方、ドイツ・ボンで開催されたUNFCCCのSB64会議では、6条に基づく取引に不可欠な「相当調整」の基礎となる「隔年透明性報告書(BTR)」の提出の遅延に関する課題が報告されました(出典)。

パリ協定第6条4項関連

パリ協定第6条4項(PACM)は、本格運用に向けて技術的なルール整備が進んでいます。

  • 新方法論の承認: 監督機関は、硝酸製造におけるN2O排出削減のための新しい方法論を承認しました(出典)。これは、PACMの下で承認された初期の方法論の一つとなります。
  • EUにおける活用基準: 欧州の非営利団体は、EUが2040年の目標達成に向けて国際クレジットを評価する際、PACM基準をベースとしたハイブリッドな品質評価アプローチを採用すべきだと提言しています(出典)。

各国炭素関連政策

各国政府は、規制市場の強化と国際市場への接続を同時に進めています。

  • EU ETSの2026年見直し: 2026年の制度見直しを控え、市場安定化予備(MSR)による許可証の追加吸収(2026年9月から1.9億ユニット規模)が発表される一方、エネルギー価格高騰を受けた無償割当基準の凍結を求める声も上がっています(出典)。
  • 英国の第7次炭素予算: 英国政府は、2040年までに排出量を1990年比で87%削減するという野心的な目標を発表しました(出典)。この達成には、炭素除去(CDR)の価格をETSレベルまで下げるための政府補助金が必要になるとの研究も出ています。
  • CBAMと第6条のリンク: EUの輸入業者が第6条クレジットをCBAMの手数料控除に使用できるようにする提案に対し、アナリストは2040年までに年間1,700万トンの潜在需要が生まれると分析しています(出典)。
  • ニュージーランドの森林ETS改革: ニュージーランド政府は、森林ETSの課徴金削減とオークション数量のさらなる制限を提案しました。供給過剰リスクの管理と森林所有者の負担軽減を両立させる狙いです(出典)。

非国家主体のイニシアチブ

  • SBTi「コーポレート・ネットゼロ・スタンダード2.0」(出典: SBTiは待望の新基準を発表しました。ここでは、企業の「継続的な排出に対する責任(Ongoing Emissions Responsibility)」という概念が導入され、ネットゼロ達成プロセスにおける高品質なクレジット活用の道筋が明確化されました(出典)。これにより、企業の科学的根拠に基づいた削減とVCM利用の整合性がより高まると期待されます。
  • ラテンアメリカの優位性: 2026年5月のデータによれば、ボランタリー市場で償却(Retire)されたクレジットの25%以上がラテンアメリカ・カリブ海地域からのものであり、依然としてREDD+が市場の主要な供給源であることが示されました(出典)。

2. UNFCCC Updates

今月、UNFCCCレジストリには合計6件の重要な文書が提出されました。内訳は、NDC(国が決定する貢献)が3件、BTR(隔年透明性報告書)が1件、そしてパリ協定6条2項に基づく初期報告書(Initial Report)が2件です。

今月、JCMパートナー国からの提出はありませんでした。 本稿では、6条2項に関連して特筆すべき、ペルー(PER)やシエラレオネ(SLE)が初期報告書を紹介します。

ペルー (PER) - Initial Report

ペルーは6条2項の活用に極めて積極的であり、既にスイスおよびシンガポールと二国間合意を締結しています。

  • 目標: 2030年までに無条件で 208.8 MtCO2eq、条件付きで 179.0 MtCO2eq への排出制限を目指しています。
  • 6条インフラ: 国内レジストリ RENAMI (National Registry of Mitigation Measures) を整備済み。最高政令により承認プロセスを法制化しています。

シエラレオネ (SLE) - Initial Report

  • セクター: 森林減少の主要因である「調理用木材燃料」の消費削減に焦点を当てています。
  • プロジェクト: 「DelAgua Clean Cooking Project」を対象とし、期間合計で約1,100万tCO2eの削減を見込んでいます。

3. 考察記事:JCMクレジットとEU CBAM - JCMクレジットの新たな活路?

はじめに

2026年5月13日、欧州委員会はCBAM(炭素国境調整措置)の中核をなす実施規則の草案を公表しました(出典)。この草案は、第三国で支払われた炭素価格をどのようにCBAM証書の提出削減数に換算——すなわち「EU域外で既に支払った炭素コストを認証し、CBAMとの二重支払いにならないようにするか」を定めるルールです。

今回の草案規則の登場によって、JCMクレジットの新たな使途の可能性が見えてきます。パリ協定6条2項に基づく国際クレジット、すなわちJCMクレジットも、一定条件のもとで炭素価格控除として認められる可能性が示されたからです。しかし草案はその利用に上限を設け、NGOや業界団体はそれぞれ異なる立場から多様な意見を唱え、今後の草案採択に影響を及ぼす可能性があります。

本稿では、草案規則の構造を整理したうえで、今月まで実施されていたパブリックコンサルテーションで提出された幾つかのフィードバック(意見)を読み解き、CBAMとJCMクレジットとの関わりを整理します。