パリ協定6条2項・6条4項定期アップデート/REDD+現在地を探る
デロイト トーマツ サステナクラフト株式会社のニュースレターです。本記事は主要な炭素関連政策の動向に関し、以下の項目に沿ってお伝えします。
- 政策動向
- パリ協定6条2項(二国間協力)
- パリ協定6条4項(パリ協定クレジットメカニズム)
- 各国炭素関連政策
- 非国家主体のイニシアチブ
- UNFCCC Registry
- 考察記事
- REDD+の「現在地」を探る
キーワード: 6条, 二国間協力, PACM, JCM, REDD+
はじめに
2026年4月から5月半ばにかけての政策動向は、パリ協定に基づく国際取引の実装化と、品質基準を巡る既存制度の再編が鮮明となった期間でした。6条2項では、日本がオマーンと32カ国目のJCMパートナーシップを締結したほか、シンガポールとフィリピンの二国間実施協定署名、ノルウェーによるパキスタン・モロッコとの合意など、ITMOs(国際的に移転される緩和成果)の創出に向けた政府間ネットワークがさらに拡大しています。
また、6条4項では、国連(UNFCCC)がレジストリ規則のドラフトを公開し、パリ協定クレジットメカニズム(PACM)の本格運用に向けた技術的基盤が整いつつあります。UNFCCC関連では、日本、及びJCMパートナー国であるタイおよびモルディブによるパリ協定第6条2項に基づく年次情報報告書(Annual Information Report)の提出がありました。
ボランタリー市場においては、コアカーボン原則(CCP)ラベルが価格プレミアムを形成し始めるなど、品質重視の市場選別が一段と進んでいます。欧州の炭素国境調整措置(CBAM)や域内排出量取引制度(EU ETS)の行方についても、2026年以降のベンチマーク設定や無料割当の段階的廃止を巡り、産業界と政策立案者の間で激しい議論が続いています。
締めくくりの考察記事として、『REDD+の現在地』を整理していきます。GX-ETSの価格帯を踏まえ、再びREDD+への関心が高まる中、最新の科学的知見に基づくリスクの解説や、進化する「管轄型REDD+」、適正価格と持続可能性について考察します。また、最後に、JCM REDD+への示唆についても触れたいと思います。
1. 海外の主要規制の動向
パリ協定第6条2項関連
パリ協定第6条2項(二国間・多国間協力アプローチ)は、NDC(国が決定する貢献)達成に向けた国際的な炭素クレジット取引の枠組みとして、今月も各国間で多くの進展が見られました。
- パートナーシップのさらなる拡大と具体化
- 制度運用と各国の規制整備
パリ協定第6条4項関連
パリ協定第6条4項(PACM)に関しては、監督機関(Supervisory Body)による運用細則の具体化が進んでいます。
- PACMレジストリ規則の公開
- 国連(UNFCCC)は、PACMのレジストリ規則ドラフトを公開しました。アカウント管理、移転手続き、除去活動の要件などが詳細に規定されており、今後の監督機関会合で最終化される予定です(出典)。
- 方法論の開発と優先分野の提示
- N2O削減フレームワークについて、専門家グループが採用に向けた勧告を行いました。一方、クリーンクッキング手法についてはさらなる検討が必要とされています(出典)。
- 域内規制との整合性に対する懸念
- 欧州の炭素除去認証枠組み(CRCF)草案について、NGOから「パリ協定第6条4項の基準よりも要件が弱く、気候変動対策としての信頼性が損なわれる」との批判が出ており、国際基準と域内基準のダブルスタンダード化が懸念されています(出典)。
各国炭素関連政策
2026年4月から5月にかけて、各国は排出量取引制度(ETS)の深化や、炭素価格の政治的安定性を巡る課題に直面しました。
- EU ETSおよびCBAMの動向
- 各国・地域の独自政策と不確実性
- アジアのクレジット利用促進
- シンガポールとタイは、パリ協定第6条に基づく炭素クレジットプロジェクトの募集を開始しました。承認されたクレジットはシンガポールの炭素税支払いに充当可能となります(出典)。
非国家主体のイニシアチブ
ボランタリーカーボン市場(VCM)の信頼性を高めるため、十全性評議会(ICVCM)を中心とした品質ラベルの適用が市場に具体的な変化をもたらしています。
- ICVCMとCCPラベルの普及
- SBTiの基準更新
- 科学に基づく目標イニシアチブ(SBTi)は、企業が排出削減目標を設定する際に用いる「絶対収縮アプローチ(Absolute Contraction Approach)」の更新を発表し、ネットゼロ達成に向けた野心の維持と実施の一貫性を求めました(出典)。
- ニュージーランドの独自戦略
- ニュージーランド政府は、ボランタリーカーボンおよび自然市場(Nature Market)を拡大するための保証枠組みと戦略を発表しました。民間資金を自然回復プロジェクトに呼び込むことを目的としています(出典)。
- 法的リスクの顕在化
- 米国の裁判所において、化石燃料企業に対する州法に基づく裁判が継続されるなど、気候関連の訴訟リスクが高まっています。これはVCMにおける企業の主張(Claims)にも法的責任が厳格に問われる時代の到来を示唆しています(出典)。
2. UNFCCC Updates
はじめに
2026年4月から5月にかけて、UNFCCCレジストリには合計6件の重要なレポートが提出されました。今月のハイライトは、日本、及びJCMパートナー国であるタイおよびモルディブによるパリ協定第6条2項に基づく年次情報報告書(Annual Information Report)の提出です。タイは、JCMの他、スイスとの協力アプローチの下で、運輸セクターにおけるITMO(国際的に移転される緩和成果)の初回移転を報告しています。また、主要排出国であるインドが次期NDC(2031-2035年)および初の隔年透明性報告書(BTR1)を提出し、森林セクターでの大幅な吸収源創出と、第6条活用の意向を明文化した点も極めて重要な進展です。
6条報告
- 日本・年次情報報告書: 2025年にタイおよびモルディブから合計1,442 tCO2 eqのJCMクレジットを取得。これはパリ協定下のJCM案件が、実際に「ITMO」として国際レジストリ上で認識・管理され始めたことを示しています。
- タイ・年次情報報告書:タイ政府は、2023年から2024年にかけて合計21,138 tCO2 eq(ヴィンテージ2022/23)のITMOをスイスへ初回移転済みである点、及び**2025年に1,009 tCO2 eq(ヴィンテージ2021)**を報告しています。承認されたエンティティとして、Energy Absolute Public Company Ltd. 等の民間企業が明記されており、民間主導の第6条案件が先行しています。
- モルディブ・年次情報報告書:JCMの承認ID「JCM-MV002-001」の下、433 tCO2 eqの緩和成果を承認しています。国内レジストリの運用が示唆されており、JCMを通じたITMO追跡体制が整いつつあります。
- スイス・年次情報報告書: タイ、バヌアツ、ガーナとの協力アプローチを並行して進めており、ITMOの取得と任意取消(Voluntary Cancellation)を報告しています。
NDC(国が決定する貢献)
インド- 次期NDC (2031-2035)
インドは、2047年までの先進国入り(Viksit Bharat)を見据えた野心的な次期目標を提出しました。
- 削減目標: 2035年までにGDP当たりの排出強度を2005年比で47%削減。非化石燃料による発電容量比率を約60%に引き上げ。
- 森林セクター: 2035年までに3.5〜4.0億トンの追加的炭素吸収源(CO2換算)を創出。
- 第6条活用意向: グリーン水素、洋上風力、CCUS(炭素回収・利用・貯留)などの新興技術の導入を促進するために第6条を活用する意向を明記しました。
インド - 第1回隔年透明性報告書 (BTR1)
インドはETF(強化された透明性枠組み)に基づく初の報告書を提出し、進捗を可視化しました。
- 現状: 2022年時点でGDP排出強度は37.38%削減(2005年比)されており、2030年目標(45%削減)に向けて極めて順調です。
- 森林の進捗: 2005年から2022年までに累計24.4億トンの追加吸収を達成済み。
3. 考察記事:REDD+の「現在地」を探る
はじめに
GX-ETSの価格帯を踏まえ、REDD+(途上国の森林減少・劣化からの排出削減)への関心が再び高まっています。一方で、REDD+については、2023年、それまでのREDD+プロジェクト(第一世代REDD+と呼ばれます)の多くが、実際の森林保全効果を過大に見積もっていたとする学術論文と調査報道が相次ぎました。このため、「REDD+は高リスク」というイメージが根強いように思います。
あれから数年が経ち、REDD+の科学的検証はさらに深まり、クレジットを発行する認証制度(管轄型REDD+)の改革も進みつつあります。本稿では、2024〜2026年に出版された幾つかの学術論文から新たな科学的知見を振り返るとともに、認証制度や市場価格の動向を踏まえ、REDD+の現在地を整理したいと思います。