パリ協定6条2項・6条4項定期アップデート/ブラジル重要鉱物
株式会社sustainacraftのニュースレターです。
本記事では、2026年1月から2026年2月にかけて発表された主要な炭素関連政策の動向に関し、以下の項目に沿ってお伝えします。
- 政策動向
- パリ協定6条2項(二国間協力)
- パリ協定6条4項(パリ協定クレジットメカニズム(PACM))
- 各国炭素関連政策
- 非国家主体のイニシアチブ
- UNFCCC Registry
- 考察記事
- ブラジルの重要鉱物と脱炭素、エネルギー移行のパラドックスとAmazonのリスク
キーワード: 6条, 二国間協力, PACM, JCM, SBTi, 重要鉱物, Amazon
本記事の執筆者:梅宮知佐(Carbon Specialist)
はじめに
パリ協定第6条2項では、シンガポールや日本(JCM)を中心に、二国間協定から具体的なプロジェクト募集や資金拠出へと動きが加速しています。一方、6条4項(PACM)では中東初のプロジェクト登録やCDMからの移行が進み、新メカニズムが実働を開始しました。
政策面では、EU CBAMが本格運用段階に入る中での通商摩擦や、台湾での炭素税導入など、制度運用に伴う実務的な課題と進展が見えてきています。
考察記事では、ブラジルの重要鉱物に着目し、脱炭素に向けた世界のエネルギー移行と森林減少のパラドックスを解説します。ブラジルは脱炭素技術のための資源供給国として、そして同時に、広大な熱帯林を保有する森林国家として、二つの世界的要請の板挟みになっています。トレーサビリティの確保、ダウンストリームへの投資による環境保全への資金・技術の循環といった行動を促進するため、デューデリジェンスの役割はますます重要になってくると考えています。
政策動向
パリ協定6条2項
二国間協定に基づくプロジェクト
シンガポールと日本を中心に、協定の実効性を高める動きが世界各地で活発化しています。
- シンガポールとルワンダは、両国間の6条2項協定に基づく新しいカーボンクレジットプロジェクトの申請受付を開始しました(出典)。
- チリは、6条2項プロジェクトのために14億ドルの投資を確保し、スイスとの間で初のプロジェクトを承認しました(出典)
- 日本(JCM)も、各国との関係強化と具体的案件の形成を進めています。
- ブラジルは、シンガポールおよびスイスと6.2条に基づく将来の二国間貿易のための合意に署名しました(出典)。2025年12月の日本とのLOI署名(出典)に続き、ブラジルが国際炭素市場の主要プレイヤーとして本格的に動き出しています。
パリ協定6条4項
パリ協定6条4項(PACM)に関しては、中東での初プロジェクト登録など、メカニズムの実装に向けた成果が報告されています。
- ヨルダンで、PACMの下、中東初となるプロジェクトが登録されました(出典)。これは埋立地ガスプロジェクトであり、CDMからの移行案件です。方法論の承認プロセスが進み、実際にPACMの下でプロジェクトが稼働し始めたことは、制度の信頼性向上に寄与します。
CDMからの移行については、CDMが2026年末で終了するため、今後も同様の移行申請や新規登録が増加することが予想されます。
各国炭素関連政策
各国は炭素排出量削減に向けた多様な政策を推進しましたが、特にEUのCBAMやETSを巡る議論が白熱しています。
CBAM(炭素国境調整措置)に関する議論
- 中国は、EU CBAMが不公平かつ差別的であるとして、対抗措置を講じる可能性を警告しました(出典)。
- 欧州委員会は、肥料部門などの懸念に対応するため、深刻かつ予期せぬ事態において製品を一時的に免除できる条項(Article 27a)を追加しました(出典)。
ETS(排出量取引制度)改革・動向
- 台湾は、2026年1月1日に炭素税を導入しました。電力・製造業に対し1トンあたり9ドルを課税し、2026年5月に最初の支払いが予定されています(出典)。
- インドは、カーボンクレジット取引制度(CCTS)に基づき、主要産業の排出原単位目標を正式に通知しました(出典)。
- 欧州では、ドイツの裁判所が2030年目標に向けた対策強化を命じる一方、スロバキア等の首脳からはETSの一時停止を求める声が上がるなど(出典)、気候政策と経済負担のバランスを巡る議論があります。
NDCと国際資金
- ネパールは、LEAF連合(Lowering Emissions by Accelerating Forest finance)から森林保全の対価として5,500万ドルを受け取る契約を締結しました(出典)。これにより生成されるクレジットは「相当調整」済みとして、シンガポール炭素税やCORSIAでの利用が可能となります。
非国家主体のイニシアチブ
SBTiと市場の品質重視
SBTiの更新された企業ネットゼロ基準(CNZS V2)においては、ネットゼロへの移行過程での炭素クレジット利用について、CNZS V2で新設されたOngoing Emissions Responsibility(OER)という枠組みの中で、要件に応じ、Recognised(認識)とLeadership(リーダーシップ)という2つのティアで評価される方向となり、その経緯をCarbon Pulseが取り上げています(出典)。これまで、なかなか企業の活動が進んでいなバリューチェーン外での貢献(BVCM)としてのクレジット利用がSBTiの中でより明確に位置づけられることは、VCM需要にとって大きな追い風となります。
一方で、投資家からはSBTiに対し、除去(Removal)のみを優先するのではなく、クレジットの「質(Integrity)」そのものを重視すべきだとする意見も出されています。
UNFCCC Registry Updates
JCMパートナー国であるパラオ(NDC 3.0)(出典)とパプアニューギニア(First BTR)(出典)からの提出がありました。その他、気候変動の影響を強く受ける島嶼国(SIDS)からの提出が集中しており、これらの国々がパリ協定第6条(市場メカニズム)を活用した資金調達に強い関心を示していることが確認できます。
Palau (PLW) - NDC 3.0 提出
パラオは2035年までにBAU比で12%(無条件)、44%(条件付き)の排出削減を目指しています。6条2項の活用として、JCMプロジェクトへの参加を明記しており、すでに4件の屋上太陽光システムが登録済みです。今後も実施を強化する意向を示しています。また、登録されたJCMプロジェクトからの緩和成果はNDCで計上され、二重計上を回避する方針が明確にされています。
国土の大部分が森林とマングローブで覆われており、2022年には国の排出量の6.5倍に相当する吸収量(-734.1 ktCO2e)を記録する「ネット・ネガティブ」国です。2040年までに500haの植林、およびマングローブ地域からの追加的な除去量増加を検討しています。
Papua New Guinea (PNG) - First BTR 提出
パプアニューギニア(PNG)は、2030年までに50%カーボンニュートラル、2050年までに完全カーボンニュートラルを目指していますが、これらは国際支援に100%依存しています。NDC達成のための資金調達手段として、ITMOs(国際的に移転される緩和成果)の活用、つまりクレジットの販売に明確な意欲を示しています。現在3カ国と二国間協定を締結済みですが、ITMOsの承認実績はまだありません。
2022年に約-1,427万tCO2eqの純吸収を記録しており、LULUCF(土地利用・土地利用変化及び林業)セクターは、圧倒的な吸収源の役割を果たしています。「National REDD+ Strategy (2017–2027)」が稼働中であり、木材合法性監視の強化、持続可能な土地利用計画、植林(2030年までに22万ha目標)などが主要施策です。JCMにおけるREDD+案件のポテンシャルは高いと言えます。ただし、ガバナンス(木材の違法伐採対策等)や、MRV(測定・報告・検証)のための国内能力構築が課題として挙げられており、技術支援を組み合わせたアプローチが有効です。
今月は「初期報告書(Initial Report)」等のArticle 6.2メカニズム専用の報告書の提出はありませんでした。
考察記事:ブラジルの重要鉱物と脱炭素、エネルギー移行のパラドックスとAmazonのリスク
はじめに
世界のエネルギー移行(Green Energy Transition)は、皮肉なことに、大量の鉱物資源の採掘を必要とします。電気自動車(EV)や風力タービン、太陽光パネルの製造には、リチウム、コバルト、希土類(レアアース)などの「重要戦略鉱物(Critical and Strategic Minerals: CSMs)」が不可欠だからです。世界銀行の予測によれば、2050年までにグリーンテクノロジー分野だけで30億トン以上の鉱物が必要になるとされています。
本記事では、Igarapé Instituteのレポート(出典)を基に、資源大国ブラジルがこの「重要鉱物」の供給においてどのような立ち位置にあるのか、そしてその開発が気候変動対策の要であるAmazon(アマゾン)の森林保全とどのように競合しうるのかを分析します。脱炭素のために必要な鉱物採掘が、炭素吸収源である森林を破壊するという「パラドックス」は、ボランタリー炭素市場(VCM)や生物多様性保全に関心のある企業にとって見過ごせないリスク要因です。
ブラジルは、炭素市場において最も注目される地域の一つです。当社のニュースレター(2025年12月 VCM Updates: Section A)では、Nestléがブラジルで1,100万本の植林を行う大規模な自然再生プロジェクトや、IKEAグループとBTG Pactualによる森林再生への1億ドル規模の投資について紹介しました。これらは、劣化した土地を再生し、生物多様性を回復させながら炭素クレジットを創出する取り組みであり、ブラジルが「自然由来の解決策(NbS)」の中心地であることを示しています。また、2024年1月のニュースレターでは、当社チームが実際にブラジルのアマゾナス州やバイーア州を訪問し、単一樹種の商業植林から、より生態系に近い原生樹種の森林再生へと産業が進化している様子を報告しました(出典)。このように、ブラジルでは「森林を再生し、守る」ことが新たな産業として確立されつつあり、企業のScope 3(バリューチェーン排出量)削減やネットゼロ目標達成の重要なパートナーとなっています。
しかし、ブラジルは同時に「資源採掘大国」としての顔も持っています。現在、西側諸国は地政学的な理由から、重要鉱物のサプライチェーンにおける中国依存を減らす「フレンド・ショアリング(Friendshoring)」を推進しており、ブラジルへの期待が急激に高まっています。一方で、鉱物資源の多くは環境的に敏感な地域に埋蔵されており、採掘開発は森林破壊の強力なドライバー(要因)となります。これは、上述した森林保全や再生の取り組みと真っ向から対立する可能性があります。森林保全プロジェクトのベースライン(参照シナリオ)設定においても、鉱山開発計画の有無は森林減少リスクを大きく左右する要素であり、炭素クレジットの品質評価においても無視できない要因となっています。