パリ協定6条定期アップデート/JCMにおける永続性要件

パリ協定6条定期アップデート/JCMにおける永続性要件

デロイト トーマツ サステナクラフト株式会社のニュースレターです。本記事はVCM Updates(ボランタリーカーボンマーケットのアップデート)のセクションB(政策動向編)です。

はじめに

今月のハイライト(考察記事)では、JCMにおける永続性要件の分析をお届けします。以下の流れに沿ってお伝えします。

  • 政策動向
    • 海外の主要規制の動向
      • パリ協定6条2項(二国間協力)
      • パリ協定6条4項(パリ協定クレジットメカニズム)
      • 各国炭素関連政策
      • 非国家主体のイニシアチブ
    • UNFCCC Registry
  • 考察記事
    • JCMにおける永続性要件

キーワード: 6条, JCM, 非永続性, バッファープール


1. 海外の主要規制の動向

主要なハイライトは以下の3点です:

  1. 第6条2項の具体化: シンガポールが1,200万トン規模の大規模なクレジット調達入札の第2段階を開始し、韓国も独自の「自主的炭素市場法」の制定に動くなど、国家レベルでのクレジット確保と市場形成が加速しています。
  2. EU ETSの深化とCBAMの準備: EUでは、市場安定化予備金(MSR)の無効化メカニズム維持が合意され、次期気候パッケージに向けた炭素除去(CDR)ターゲットの策定も浮上しました。また、英国でもCBAM導入に向けた実務的なルールが整備されています。
  3. グローバル・サウスでの市場形成: バングラデシュがクリーンクッキングによる初の第6条承認を与えたほか、VCMIが東アフリカ諸国との提携を強化するなど、クレジット供給国側でのインフラ整備と国際標準への準拠が進んでいます。

パリ協定第6条2項関連

パリ協定第6条2項(二国間・多国間協力アプローチ)は、国家によるクレジット調達の本格化と、国内制度の国際標準への統合という二つの側面で大きな進展が見られました。

【背景】 2026年8月、シンガポールは11カ国との実施協定(IA)締結に至るなど、既存のVCM基準(VerraやGold Standard)を活用した迅速なクレジット確保を進めてきました。対照的に、日本は30カ国以上のパートナー国と独自の二国間クレジット制度(JCM)を構築し、2025年にはタイやモルディブとの間でJCMとして初のITMOs(国際的に移転される緩和成果)移転を完了させています(パリ協定6条定期アップデート/韓国・シンガポールとの6条2項比較 および パリ協定6条2項・6条4項定期アップデート/REDD+現在地を探る 参照)。

今月は、これらの戦略がより具体的な市場アクションへと結びつきました。

  • 国家による大規模調達の開始
    • シンガポール政府は、2030年および2035年のNDC達成に向け、少なくとも1,200万トンの第6条クレジットを調達するための選抜入札の第2段階を開始しました。事前資格審査を通過した企業に対し、高品質なプロジェクト提案を求めています(出典)。
    • また、シンガポールはラオスとも二国間炭素クレジット協力に関する実施協定に署名し、パートナーシップをさらに拡大しています(出典)。
  • 国内市場の法整備と国際標準化
    • 韓国政府は「自主的炭素市場法」の制定を推進しており、2026年末までに韓国取引所(KRX)内にVCMを開設する計画を発表しました。この市場は国際的なGlobal Carbon Council(GCC)と連携し、DMRVやレジストリの相互運用性を確保することで、第6条2項やCORSIAへの準拠を目指します。政府は初期需要創出のため、最大20万トンの高品質クレジットを直接購入する方針です(出典)。
  • 供給国側での承認実績と技術支援
    • バングラデシュは、クリーンクッキング開発者ATECに対し、第6条2項に基づく初のカーボンクレジット発行承認を与えました。これはチッタゴン管区でのIH調理器普及による129万トンの削減を目指すものです(出典)。
    • ザンビアとスイスも、改良型コンロプロジェクトの第6条2項に基づく緩和活動を承認しました(出典)。
    • 市場インフラ面では、VerraとGold Standardが、各国政府による第6条2項相当調整(Corresponding Adjustment)の報告を支援するための共同ツールを公開し、技術的な障壁の解消を図っています(出典)。
  • 日本・インド間の進展

パリ協定第6条4項関連

パリ協定第6条4項(新メカニズム)については、今月新たな承認記事はありませんでしたが、2026年末のCDM(クリーン開発メカニズム)終了に向けた移行プロセスが極めて重要な段階にあります。

【背景】 2026年初頭より、監督機関(Supervisory Body)や方法論専門家パネル(MEP)は、クレジットの永続性(Permanence)に関するリバーサルリスク評価ツールの開発や、バッファープールの運用、相当調整(CA)の要否に関する議論を重ねてきました(パリ協定6条2項・6条4項定期アップデート 参照)。

現在は、CDMからPACM(Paris Agreement Crediting Mechanism)へのプロジェクト移行と、新メカニズム下での承認手続きの確立が焦点となっています。今後は、特に自然系プロジェクト(NbS)や「抑圧された需要(Oppressed Demand)」を考慮した新基準の適用状況が、市場供給量に大きな影響を与えることになります。

各国炭素関連政策

各国では排出量取引制度(ETS)の制度深化と、炭素国境調整措置(CBAM)の実施に向けた実務的なルール作りが加速しています。

【背景】 EUのCBAMは2026年1月に本格稼働を開始し、輸入業者は排出量の報告だけでなく、証書の購入義務を負うフェーズに入っています(パリ協定6条2項・6条4項定期アップデート 参照)。また、EU ETSでは、2026年から2030年の無償割当量を決定するためのベンチマーク策定や、市場安定化予備金(MSR)の運用方法が議論の焦点となってきました(パリ協定6条2項・6条4項定期アップデート/REDD+現在地を探る 参照)。

  • EU ETSの深化と反発
    • EU加盟国は、ETSの市場安定化予備金(MSR)における排出枠の無効化メカニズムを維持することで暫定合意しました。これは過剰な供給を抑制し、価格シグナルを維持するための重要な決定です(出典)。
    • 一方、欧州委員会が提案した廃棄物焼却施設のETS導入(2031年予定)に対し、コスト増を懸念する主要都市の市長らが除外を要求するなど、適用拡大に向けた調整が難航しています(出典)。
    • また、欧州委員会は次期気候パッケージにおいて、国内の炭素除去(CDR)ターゲットを提案する見通しです(出典)。
  • CBAMの実務運用と波及効果
    • 英国はCBAMの詳細なルールを発表し、輸入業者が2026年の排出量データを翌年の納税申告に利用できることを明確化しました(出典)。
    • スペイン政府は、2026-2030年期の産業界向け無償排出枠として年間平均3,810万トンを割り当てることを承認しました。前期間より削減されており、CBAM導入を見据えた無償割当の段階的廃止と整合させています(出典)。
  • アジア・オセアニアの動向
    • 中国は、2025-2026年の全国ETSにおける排出枠割当計画を承認しました(出典)。
    • ニュージーランドでは、政府の設定する最低価格が市場実勢と乖離しているため、排出枠オークションが7回連続で不成立となりました。これに対し、ACT党は最低価格の撤廃と炭素税削減を求める公約を掲げるなど、政治的な争点となっています(出典)。
    • フィリピンは新たな排出削減目標を発表しましたが、その達成には国際的な金融支援が不可欠であるとしています(出典)。

非国家主体のイニシアチブ

ボランタリーカーボン市場(VCM)の信頼性強化に向けたイニシアチブは、グローバル・サウスへの支援と、将来的な供給不足への警告という二つの方向性を示しました。

【背景】 2026年前半、ICVCM(十全性評議会)が発行するCCPラベル(Core Carbon Principles)が付与されたクレジットには価格プレミアムが確認され、質の高いクレジットへの選別が始まっています(パリ協定6条2項・6条4項定期アップデート/REDD+現在地を探る 参照)。また、VCMI(ボランタリーカーボン市場十全性イニシアチブ)は、脆弱国が市場を活用するための支援策を継続的に打ち出してきました。

  • グローバル・サウスへの市場浸透
    • VCMIは、東アフリカ炭素市場・気候変動金融連合(EAA)とのパートナーシップを発表しました。この提携により、技術支援やインフラ整備を通じて東アフリカ諸国(世界のVCMの約10%を占める)の成長を加速させ、2030年までに10億ドルの経済機会と170万人の雇用創出を目指します(出典)。
  • 炭素除去(CDR)への警鐘
    • 専門家らは、SBTi(科学に基づく目標イニシアチブ)に準拠する企業に対し、将来的な炭素除去(CDR)クレジットの供給不足と価格高騰を懸念し、早期の調達を行わない企業はネットゼロ目標の未達成リスクに直面すると警告しました(出典)。

2. UNFCCC Updates

2026年8月16日から9月15日までの期間において、UNFCCCレジストリには合計2件の報告書が提出されました。今月のハイライトは、日本のJCM(二国間クレジット制度)パートナー国であるウズベキスタンから、パリ協定第6条2項に基づく年次情報報告書(Annual Information Report)が提出されたことです。すでに約780万トンに上る国際的に移転される緩和成果(Internationally Transferred Mitigation Outcomes, ITMOs)の初回転送(First Transfer)実績が報告されており、6条市場の実運用が本格化しています。また、オマーンからも第6条2項に基づく初期報告書(Initial Report)が提出され、中東地域における炭素市場メカニズム活用の進展が確認されました。

サマリーテーブル

JCMパートナー国

国 カテゴリ 文書タイプ 提出日 主な内容 JCM関連性
🇺🇿 Uzbekistan (UZB) Article 6.2 Annual Information Report 2026-09-08 メタン削減プロジェクトからのITMO移転実績(約780万トン)と承認体制の報告 高

その他の国

国 カテゴリ 文書タイプ 提出日 主な内容
🇴🇲 Oman (OMN) Article 6.2 Initial Report 2026-08-29 条件付きNDC目標達成に向けた6条2項の活用方針と国内レジストリ整備状況の報告

ウズベキスタン (UZB) - Annual Information Report

基本情報

  • 提出文書: Annual Information Report v1.0
  • 提出日: 2026-09-08
  • 情報元: UNFCCC Submissions

1. NDC目標とJCMとの関連性
ウズベキスタンは、2035年を目標年とする国が決定する貢献(Nationally Determined Contribution, NDC)の達成に向け、パリ協定第6条2項を積極的に活用する方針を示しています。本報告書では、NDC達成目的だけでなく、CORSIA(国際民間航空のための炭素オフセットおよび削減スキーム)を含む「その他の国際的な緩和目的(OIMP)」のためのITMO移転が承認(Authorization)されており、JCMを含む国際市場メカニズムの活用に極めて前向きな姿勢が確認できます。

2. 森林・REDD+セクターの位置づけ
今回の年次情報報告書は、エネルギー配分セクターにおける特定のメタン削減プロジェクトに焦点を当てたデータシートであるため、森林セクターの排出量・吸収量やREDD+に関する具体的な言及は含まれていません。

3. エネルギー・省エネセクター
現在、第6条2項の協力的アプローチ(Cooperative Approach ID: CA0042)として、GasGreen Asia LLCによるエネルギー配分網でのメタン削減(Methane reduction)プロジェクトが主導されています。同国におけるエネルギーインフラの効率化や漏出防止が主要なクレジット創出源となっています。

4. Article 6インフラ整備状況
ウズベキスタンは、国内レジストリ(Registry: UZ)を整備し、基礎となるレジストリ(Underlying Registry)としてVCS(Verified Carbon Standard)を活用するトラッキングシステムを構築しています。特筆すべきは、2024年および2025年ヴィンテージにおいて、すでに合計7,797,455 t CO2 eqの初回転送(First Transfer)実績を記録している点です。また、相当調整(Corresponding Adjustment)の方針として、OIMP向けの初回転送の定義を「承認(Authorization)」とするアプローチを採用しており、承認ID「UZB-0001」の下で厳格な管理が行われています。

5. JCM案件組成への示唆

  • 優先セクター: メタン削減やエネルギーインフラの効率化分野において、すでに大規模なITMO創出・移転の実績があるため、類似のエネルギー系JCMプロジェクト(ガス漏出防止、省エネ設備導入など)は政府の承認を得やすいと考えられます。
  • 機会: 独自の国内レジストリとVCS等の国際的な民間基準を連携させたハイブリッドなインフラが稼働しており、承認(Authorization)プロセスも実運用段階にあります。これは日本企業にとって、JCM案件組成時の行政手続きの予見可能性が非常に高いことを意味します。
  • 課題・リスク: 民間規格(VCS等)をベースとしたプロジェクトが先行しているため、JCM独自のメソドロジーを適用する際の国内システムとの整合性確認や、二重計上防止策のすり合わせが実務上の焦点となります。

3. 考察記事:JCM森林分野のリバーサル、誰がどこまで負うのか ―フィリピン・カンボジア・ラオスのガイドライン比較―

はじめに

2025年11月のフィリピン、2026年3月のカンボジアでのJCM森林ガイドライン採択に続き、2026年7月にはJCM初のA/R(新規植林・再植林)方法論であるPH_AM005がフィリピンで承認されました。JCMの自然系プロジェクトは、ガイドライン整備の段階から、いよいよ案件組成の段階へと移りつつあります。

案件組成が具体的になるにつれて、最近私たちがよくいただくご質問があります。それが、「台風や森林火災など、事業者が意図しない自然災害で森林が失われた場合でも、バッファーを超えた分は事業者が補填しなければならないのか」、そして「クレジットを受け取る投資家がPDDに名前を載せた場合、投資家もリバーサルのリスクを負うのか」というものです。

3月号の考察記事では、カンボジア新旧ガイドラインの比較の中で、リバーサル対応が「割引」から「バッファー積立」へ転換したことをご紹介しました。また、2025年8月のニュースレターでは、パリ協定6条4項(PACM)におけるリバーサルの取り扱いを巡る議論を取り上げています。本稿ではこの論点をもう一歩掘り下げ、フィリピン・カンボジア(新旧)・ラオスのガイドライン原文を比較しながら、上記の2つの問いに対して現行ルールが何を定めていて、何を定めていないのかを整理したいと思います。